最近ネットで話題になっていることに、アニメ「サザエさん」の視聴率低下の話題があります。
「サザエさん」は、この数年で急速に視聴率を落としています。その理由として、内容の時代錯誤さなどが指摘されていますが、私が説得力を感じたのがこちらの記事です。
この記事の中で筆者は、
>暇つぶし”“慰安”のために見る人が多い『サザエさん』は、他の目的が生ずると真っ先に見られなくなるタイプの番組なのである。今年頻発している視聴率一桁は、大半がこれで説明ができよう。
そしてより深刻なのは、「“暇つぶし”“慰安”のためにテレビを見る」という行為が減っている点だ。スマホが普及しソーシャルメディアを使う時間が増えているように、テレビのライバルが屈強になっている。デジタル録画機の普及も、「“暇つぶし”“慰安”のためにテレビを見る」を圧迫している。
筆者はこういう状況を“脱テレビ”時代とみる。よってテレビ局は、これまで強かった番組がそうでなくなる事態を想定し、見てもらうための新たな要素を加えていかなければならなくなっている。
なるほどなと思います。「サザエさん」が時代錯誤な内容の番組だから人気がなくなるというのなら、それは大した問題ではありません。しかし
>“脱テレビ”時代
というのなら、それは構造的な問題です。文字通りテレビの将来、存続にかかわる大問題ということになるでしょう。
さてbogus-simotukareさんのブログで、読売新聞がやはり「サザエさん」視聴率低下問題を記事にしていることを知りました。そこで興味深い指摘があります。
>意外と低いアニメ視聴率
ご存じの通り『サザエさん』は長谷川町子の4コママンガが原作。1950年代から江利チエミ主演の実写映画(全10作)が人気を集め、東京五輪の翌年の65年にはTVドラマも放送。そして、69年からは、現在も続くTVアニメがスタートした。アニメは当初、スラップスティック(ドタバタ喜劇)なテイストだったが、途中から現在のホームドラマの路線に変更になった。第2次石油危機が起きた79年には39.4%という驚異の視聴率をたたきだしているし、2000年代前半にもたびたび20%台をマークしている。
現在の視聴率は、おおむね10%台前半で推移している。1桁に再び転落した7月の9.9%の翌週10日は11.1%に回復しているが、実は、これはその週のアニメの中では最高視聴率で、その週の視聴率トップ30にはギリギリ入らないぐらいの数字(30位の「ぶらり途中下車の旅」が11.8%)だ。13~14%をとった週は、アニメ番組で唯一、視聴率トップ30に食い込んでいる。
誤解をしている人も多いかもしれないが、最近のアニメ視聴率というのは、おしなべて高くない。『サザエさん』に続く人気番組は『クレヨンしんちゃん』。これが8%~10%。その下に『ONE PIECE』と『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『名探偵コナン』が6~10%の間で並んでいる。つまり大半のアニメは視聴率10%未満なのである。全アニメ番組の半分弱を占めるコアなファン向けの深夜アニメになれば、視聴率はさらに低くなる。このように『サザエさん』はほかのアニメと比べても特別な存在といえる。
なるほどねと思います。「サザエさん」の視聴率低下もひどいですが、他アニメ番組も軒並み不調ということですね。そうすると「サザエさん」打ち切りも難しいかもですね。新しいコンテンツにしても、アニメでは現在以上に悪い視聴率となる可能性が大ですから。そうするとアニメを断念して違う種類の番組を制作したほうがいいのでしょうか。これもたぶん実行するかどうかはともかく視野に入れざるを得ないでしょうね。東芝も1社提供から降りて久しいですから、以前よりは打ち切りのハードルも低いでしょう。
ところで上の読売新聞の指摘にもあるように、この視聴率低下は「サザエさん」単独の問題ではありません。むしろアニメ全体の問題です。「サザエさん」が時代錯誤だから人気が落ちたというのなら、それは「サザエさん」を打ち切るなり現代的な内容に手直しするなりして視聴率を回復をめざすということになりますが、アニメ全体が視聴率が落ちていて、その理由が暇つぶしの手段として、テレビよりスマートフォンのほうが優先されるとなれば、おそらく内容うんぬんの問題でもないわけで、テレビ局としても対応はかなり難しくなります。
そこでこのスクリーンショットをご覧ください。これは、ビデオリサーチの、8月22日~28日の視聴率の表です。2016年のVol.35です。
「サザエさん」が視聴率8.6%でアニメで1番で、こういうのを「くさっても『サザエさん』」と言っていいのかはともかく、アニメーション全体がひどい低視聴率だということが確認できます。しかもですよ。私が「おいおい」と思うのが、この表に出てくるアニメが、ほとんどが長きにわたって放送されている番組だったり、あるいは長期にわたるシリーズものであることです。Eテレのは海外のアニメだし(Eテレは、海外ドラマやアニメに日本人がそんなに興味を持たなくなってからも、一種の社会的使命のために放送をしています)そういった、本来なら視聴率を取れる(期待できる)はずの番組が、どれも良くない。そしてこれは、昨今すでに新しいアニメーションがゴールデンタイムで放送される時代ではないということを表しています。
「世界名作劇場」から、NHKの放送したいくつかのアニメなど、まさに日本のアニメ史上というより日本テレビ史上に燦然と輝くすごい番組があり、あるいはそこまで言わずとも、半年なり1年なりのローテーションでさまざまなアニメ番組を各放送局が発表してくるという時代ではないんですよねえ、今は。私はとっくの昔にアニメには興味を失っているので、いまさらそれを残念がるつもりもないのですが、いろいろ感慨深いものもあります。
そうなると、「サザエさん」も安泰じゃないですね。惰性で続くのかもですが、上に書いたようにもし数字がより取れるコンテンツがあれば、打ち切りも視野に入るでしょう。
それで私が注目したいのが、サザエさんの声をやっている加藤みどりの引退の時です。これで続行すれば、十年単位で続くかもです。ただしあまりに視聴率が悪くなったら、その限りでもない。ついでながらに書いておくと、加藤は1939年生まれです。
そうこう考えると、どうもやはりアニメーションというコンテンツ自体がいろいろ限界、あるいは重大な見直しを必要とする時点に達しているということでしょうね。「サザエさん」ほか表にあるアニメは今後も長期にわたって放送されるのかもしれませんが、逆に新しいアニメをゴールデンタイムにぶつけて勝負を挑む、という状況ではないと思います。放送するとしても、事実上「惰性」「やめてさらに視聴率が悪かったら上司、スポンサー、視聴者に顔向けができない」とかいうたぐいの、あまり前向きとはいえない事情での放送続行になるんじゃないんですかね。
そうとなると、「サザエさん」ほかのアニメは、実態としては、すでに歴史的な役割は終えたのかもです。あるいは終える直前なのかも。もちろん今後復活する可能性はありますが。そういう点で言うと、たぶんテレビ業界も、歴史的な役割を終えたとまでは言わずとも、今までのような娯楽の王様、暇つぶしの王様、といった地位から滑り落ちた、あるいは滑り落ちている過程なのでしょう。
さらに、前に「笑っていいとも!」の終了について記事を書いたこととつながるように、いわゆるフジが視聴率No.1になった時代を象徴する番組ではないにしても(1969年開始の番組ですから)、これまたフジの高視聴率の象徴というべき番組が低視聴率に苦しんでいるのは、やはり時代というものを感じます。サザエさんが高視聴率を復活させるというのがなかなか困難であることが予想されるのと同様、フジテレビの視聴率復活も、決して簡単ではないでしょう。いや、私は「反フジ」ですから、別にかまわないんだけど(笑)。フジが産経新聞と縁を切れば、また話は違います(笑)。
それで、記事の趣旨とは全く関係ない話をさせていただきますと、朝日新聞の4コママンガが、フジテレビからアニメ化されたってのも時代ですよね(苦笑)。現在だったら、朝日はぜったいフジなんかに権利を渡さないし、フジだって朝日新聞のマンガを自分でアニメ化しようとするほどのチャレンジャーじゃないでしょう(笑)。当時は、まだそのようなところがいいかげん、あいまい、鷹揚だったところがあったんでしょうね。
今回の記事は、鈴木氏の記事、bogus-simotukareさんの記事を参考にさせていただきました。お礼を申し上げます。