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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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オリンピックにおけるゴルフの問題、あるいは団体戦の問題をいろいろ考える

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ネットをあたっていたら、過日私が記事にしたゴルフとオリンピックの問題についての、倉本昌弘氏へのインタビュー記事がありました。そこでは、いろいろ興味深い問題が提起されていました。

で、やはりゴルフというのはオリンピックにそぐわない、対応するためには手直しをする部分がたくさんある、という気がします。たとえば、次のような話はどうでしょうか。

> 何かというと、私たちは普段ゴルフを興行としてやっているわけです。オリンピックも確かに興行の面はありますが、アマチュアの人たちが主体の興行と、プロを使って行う興行の感覚的な違いを今回はまざまざと見せつけられた、そんなオリンピックであったと思うんです。

>――出場した4選手も戸惑ったことがあったでしょうか。

倉本:ありました。例えばユニホームです。彼らは普段契約先のものを着ていますが、オリンピックではユニホームが与えられます。でも、代表選手が決まったのが7月11日。そこからユニホームを作って8月11日に試合が始まったんですね。事前に試着してプレーしてみることもできないんですよ。

ウェアの問題などはいろいろありますよね。契約している会社との信義もあるし、試着もろくにせずにプレーする、というのでは非常に困るというものです。それで特に後半の、2週間つぶせる世界一流のプレーヤーなんかいるわけない、というのはまさに「ごもっとも」ですよね。テニスの話ですけど、ジョヴォヴィッチもセリーナ・ウィリアムズも、さっさと早い段階で負けたのは、偶然かどうか。故意敗退でなくても、彼(女)らにとって、オリンピックというのがやる気が出るものなのかどうか。

ユニホームを作ってもらえることは分かっているのですが、みんな契約に縛られているので、事前にどこかの試合で着たいと思ってもできないんですよ。これが他の競技団体とはまったく違うことです。体操であれ水泳であれ、代表が遅く決まったとしても、ユニフォームを一度は着て練習してみることができるじゃないですか。ゴルフはほぼ現地に行ってからでないとできないんです。きっちり体に合わせて作っているわけではありません。それで現地で着てみてから、なんだかちょっと窮屈だなとか、ここが気になるなというのがあるんですね。

それでこの件も重要ですね。

>ゴルフのトーナメント期間中、ギャラリーが全員スマホを持って撮影をしているんですよ。

――通常のトーナメントではあまり見られない光景ですね。

倉本:そうなんです。プロ選手にとっては「ちょっと待ってよ、私を撮らないでよ」と。プロ選手には肖像権があって、それを大会に渡しているからこの大会がある、その対価として我々は賞金をもらっている。そういう関係で普段ビジネスが成り立っているわけですが、ことオリンピックについてはそのモデルが成り立たないんですよ。これもすごく新鮮な感覚でした。

 実は、プロの肖像を撮らせてもいいんですかと現地でIGF(国際ゴルフ連盟)の役員に話をしたんですよ。すると、オリンピックの競技は全部撮っていいんです、どこも規制していません、なのでゴルフも規制しませんと言うわけです。へえ、と言うしかありませんでした。

肖像権の問題はいろいろなことと関わり合うということですね。肖像権を売るのも仕事のうちとしても、オリンピックではそのような話が通用しない部分があります。そう考えると、こういうのも調整がきくようなことでもないように思うし、これは放棄するという選択肢も考えなくてはいけないのかもです。

さて、ここで団体戦の話についての問題が出てきます。

>「団体戦」はなぜできないのか?

――ゲームの方法では、4日間かけてやっとメダリストが3人決まるという進行ですが、スピード感や高揚感の点で他競技に見劣りしませんか。

倉本:私もそう感じています。私はオリンピックだけのためのゴルフがあってもいいのではないかと思うのです。オリンピックに特化したルールを作り、オリンピックに特化したフォーマットを作る。例えば、まったくの思いつきですが、6ホール、6ホール、6ホールを使って試合をやるとか、今のように18ホールを1日で消化するということではなく、もっと違うやり方があるんじゃないかと思っています。それから、やはり国別対抗の方がはるかに盛り上がるだろうとも。

――団体戦を求める声はありましたね。

倉本:これは根本的なことなのですが、オリンピックの基本は個人による競技であって、国でもなければチームでもないそうです。チーム競技であればチームで戦っていいのだけれど、そうでない競技については戦うのは個人であり、まして国と国の戦いではないというものが憲章に明確に書かれているそうです。だから、各国が金をいくつ取った、銀をいくつ取ったというのは、本来は憲章に違反しているんだと。もう一つ、現実的な問題として私の聞いたところでは、IOC(国際オリンピック委員会)のルールで個人戦と団体戦を同時に行うことができないそうです。

 同時にできないから、体操だって男子団体は個人と別にやるわけです。もしゴルフで同時にできるならば、個人戦をやりながら4人のうちの3人のスコアを取るなどして団体戦ができるはずです。でも、今のルールでは日程を変えて団体戦をまたやり直さなければいけません。そうなると、世界のトップレベルの選手は絶対に出てきません。なぜなら、2週間も拘束されたくないですから。2週間で数億円稼ぐ選手が、自分の肖像権を渡してまで、なぜ人に金を稼がせるんだというわけです。例えば米国ツアーだったら、自分の肖像権を米国ツアーに渡していれば年金としても返ってくるんですよ。

なるほどですね。フィギュアスケート(これは冬季ですが)なんかの団体戦も、だから最初にやるわけです。でもあれソチでは盛り上がらなかったよね(苦笑)。各選手だってやる気なんか出んでしょ。それはそうで、誰だって個人で勝ちたいもん(笑)。卓球とかのように、昔から団体での試合をやっていたのなら別にいいけど、基本的に競技も練習も全部ばらばらなフィギュアスケートのような競技で団体戦なんかしたって、それはメダルをもらえればそれなりの価値はあるかもだけど、個々の選手からすればいい迷惑ですよね(笑)。だいたいフィギュアの団体戦て、男子、女子、ペア、アイスダンスを全部いっしょにして勝負しようというんだから、かなり設定からしたって無理があるし、また個人戦に影響が出ます。事実たとえばキム・ヨナは、韓国の団体戦なるものがなかったので、ゆっくりソチに入ることができ、いい状態でコンディションを整えることができました。これだけで、団体戦に引っ張り出された浅田真央なんかは不利になります。彼女は、ソチに入った後さらに遠方の合宿地へ赴き、またソチに戻るといったことを余儀なくされました。私にとっては、浅田真央が不利になってヨナさんが有利になるということは、世の中でこんなうれしいことはないんですけどね(爆笑)。

いずれにせよ、だから団体戦なんてものは、やるのなら個人戦が終わった後にすればいいのですが(他のスポーツはだいたいそうしていますよね? 陸上や水泳だって、リレー競技は最後のことが多い)、でもフィギュアなんて個人戦が終わった後じゃケガもあるし、集中力も続かないし、やる気も起きないし、ぜんぜんダメだからね(笑)。まーったく、フィギュアの団体戦なんて迷惑な発案です(笑)。

まああるいは、平昌ではもっと改善されて団体戦も盛り上がるのかもですが(その可能性は低いと思います)、基本的にはフィギュアスケートの団体戦なんて愚劣にもほどがあると思いますね。日本だって盛り上がらないんだから、世界で盛り上がるなんてことはないんじゃないですかね。

そんな話はともかく、倉本氏のインタビューなどを読んでも、いかにゴルフがオリンピックとは相容れない要素が大きいスポーツであるかということがわかります。プロが圧倒的で、歴史的にオリンピックと縁が薄く、大金を稼ぐことができる。つまりはオリンピックとの親和性がきわめて低いわけです。ゴルフがオリンピックの種目から除外されることは当分ないかもですが、盛り上がる可能性は低そうです。

オリンピックの商業化とか肥大化というのは仕方ない側面はあると思います。もちろん程度の問題ですが、世界中でテレビやネットにつながる人間が増えているのなら、さまざまなニーズにこたえる部分は必要かと思います。サッカーのユーロ(欧州選手権)とかチャンピォンズリーグがだんだん規模が大きくなるのも、まあ仕方ないというか、必要な部分も大きいわけです(サッカーのナショナルチームの実力もだんだん平準化しています)。でもゴルフとかフィギュアスケートの団体戦なんて、業界が喜ぶだけじゃないですかね(笑)。ゴルフのオリンピックなんて、ゴルフファンも興味ないし、フィギュアスケートの団体戦も、好きな選手が個人戦で勝つほうがファンもよっぽどうれしいでしょう(笑)。いや、業界団体の希望がすべてなんですかね(笑)。そうなんでしょうけど、ファンや視聴者、観客のことはあんまり考慮されていませんよね(笑)。

というわけで、私としては、これからもオリンピックは、個人戦重視で観る所存です。


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