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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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JASRACとヤマハがついに裁判となる(京都大学にも要求?)

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inti-solさんのブログに面白い記事が紹介されていました。

ヤマハ、JASRACを提訴へ 教室演奏の著作権めぐり
日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作権料を徴収する方針を決めたことに対し、音楽教室大手・ヤマハ音楽振興会が7月にも、「教室での演奏には著作権は及ばない」として、JASRACへの支払い義務がないことの確認を求める訴訟を東京地裁に起こす方針を固めた。

JASRACは来年1月の徴収開始を目指し、教室を運営する各社に使用料を年間受講料収入の2.5%とする規定案を提示、使用料規定は7月にも文化庁に提出する予定。
これに対し、ヤマハや河合楽器製作所など教室側は2月、「音楽教育を守る会」を結成し、JASRACに対し「演奏権は及ばない」とする反論を各社が送付した。さらに使用料規定を出さないようJASRACに指導することを文化庁に要請し、要請に賛同する署名も約3万人分集めた。

ヤマハによると複数社が訴訟への参加を検討しているという。訴訟により、使用料率など金額の多寡が問題でなく著作権がそもそも及ばないと訴える狙いだ。

著作権法は、公衆に直接聞かせたり見せたりする目的で演奏する「演奏権」を、作曲家や作詞家が専有すると定める。同会側は「技芸の伝達が目的で聞かせることが目的でない」と主張。JASRACは「人気曲を使い、魅力を生徒が味わっている以上、聞かせることが目的」と反論している。

常識的に考えて、音楽教室での曲使用(講師が生徒のために模範の演奏をする)って、著作権法の趣旨をかんがみてもとてもこんなことに当てはまるような代物じゃないんじゃないのと思いますが、どうなんですかね。

もうひとつ、問題なのは、おそらくJASRACは、音楽教室に「包括契約」を要求するであろうことです。「包括契約」とは、

>包括許諾=JASRACの全管理作品の利用を一括して許諾する方式

ということです。

でもたとえばピアノ教室なんかはバイエルなど多くは著作権切れの教材(曲)を使用しているはずです。そのような状況からJASRAC側が包括契約で著作権使用料が徴収すれば、たぶん実態にきわめてそぐわない形での徴収となる。しかも2.5%ってのは高額ですよね。ぼったくり、あこぎ、法外にもほどがあります。

で、これはどうもJASRAC側がかなり強引に徴収の見切り発車をしたようですね。inti-solさんがお書きになっているところによると

>その後の報道等によると、JASRACが音楽教室から使用料を取ると言い出したのは今回突然ではなく、業界と10年近くにわたって交渉を続けてきたようです。ただし、あの、訴訟好きのJASRACが10年も訴訟を起こさなかったのは、やはり裁判で勝てる自信はなかったからでしょう。

こういうのって、ヤマハなり河合なりの大手業者の了解を得ないですすめるものかよと思いますが、つまり音楽産業(CDなど)の売り上げ低下がはなはだしいので、かなりなりふり構わぬ姿勢でおしすすめたということでしょう。それまたむちゃくちゃですよね。

それでJASRACは、社交ダンス場での音楽使用について著作権料の徴収を決め、これが裁判に争われてJASRAC側が勝訴したことがあります。現在ではフィットネスクラブ(エアロビクスの音楽使用)、カラオケ教室でも著作権料が認められています。

社交ダンス教室ではJASRAC勝訴 

2017/5/16 13:51

 著作権法は、楽曲を公衆に聞かせる目的で演奏する権利(演奏権)を著作権者が専有すると定めている。日本音楽著作権協会(JASRAC)はこの規定を根拠に、カラオケやコンサートでの歌唱について著作権料を徴収している。

 演奏権を巡る裁判では、JASRACと社交ダンス教室の経営者らが争った訴訟がある。一審・名古屋地裁に続き2004年に名古屋高裁は、ダンス教室のレッスンで音楽を再生する行為が「公衆の前での演奏」に当たると判断。ダンス教室側に著作権使用料の支払いを命じた。

 教室側は「特定の少数を対象とした音楽の利用で営利目的ではない」と主張。JASRACによると、高裁判決を不服として上告したが、同年に最高裁でJASRACの勝訴が確定している。

私見を述べれば、この判決(判例)も相当ひどいと思いますが、今回は社交ダンス教室よりはるかに法解釈が恣意的、拡大解釈、拡張解釈であろうと考えます。裁判でJASRAC側が勝つかも怪しいし(こちらの記事によると、JASRAC側がやや有利ではないかとのこと)、勝ったらこれは司法の危機じゃないですかね。本気でそう考えます。社交ダンス業界よりはヤマハや河合のほうがはるかに政治や社会に与える影響力も強いですし、音楽教室というものの持つ力もそれなりのものがありますから、たぶん社交ダンスよりはJASRAC側の勝訴は難しいでしょうが、はてどうなることか。著作権に詳しい弁護士なども、かなり疑問視する声が大きいし、ネットでもJASRACの強引なやり方への批判が大きいですね。といいますか、この件でJASRACのやり方を全面的に支持する著作権に強い弁護士というのは、JASRACの顧問弁護士以外いるんですかね? 

ほかにも、金を取られるのだからそれは好意的な声が大きいとも思いませんが、たとえばJASRACが包括契約を強硬に要求するなんてのは、まったくもっておかしい話ですよね。そんなこと金をもらう側が上から目線で要求するようなことじゃないでしょう(苦笑)。税金だってなんだって、まともなところならこんな態度であるわけがない。

で、これはJASRACそのものではありませんが、このような対応はどうでしょうか。inti-solさんの記事から引用します。

>音楽教室において講師が一曲フルで模範演奏する機会ってどれくらいあるのかという問いに対して、基本的にはそういうことはない、というのがリコーダー奏者本村氏の返事です。
それに対して、伊東乾氏は

レッスンと称して自分でまともに演奏しもせず、鉛筆や消しゴム投げてばっかで一回二万円なんてのもあるわけで、音楽教育の改善につなげるのがよいでしょう。「レッスンは演奏か?」ではなく「演奏もしないで口三味線の教えでレッスン料取るな!」が正解

これについてinti-solさんは

>いやー、それは違うんじゃね、と。
だって、そもそも音楽教室って、受講者が演奏技術(歌の教室なら歌唱技術)を学ぶためにあるのであって、講師の演奏を鑑賞する目的ではありません。

>講師が1曲通して模範演奏なんてやりません。というか、できません。フルート四重奏曲やケーナ、サンポーニャ、ギター、チャランゴ合奏曲の模範演奏を、どうやって一人の講師がやるのか、と(笑)。物理的に不可能です。
その上で、講師が実演するのは、間違いやすいところ、生徒がどうしてもできない部分だけ、せいぜい数小節程度です。それは、「引用」の範囲を超えるものではないでしょう。

とお書きになっています。私個人の意見を言いますと、音楽業界と無関係な人間の放言ならともかく(それだって非常識きわまりないものですが)、音楽業界で飯を食っている人間が書く文章じゃないですね、これは。ほとんど音楽を冒とくした発言じゃないですかね。最低最悪です。

いずれにせよ合理性のあるところから金を取っていくのは社会の常であり、そう考えると今回の措置は無理やりの徴収に大資本が反発したということでしょうね。ここはもちろん私としても、ヤマハ側を支持したいところです。

という記事で発表しようと思ったのですが、偶然か必然か、面白い報道がありました。いろいろなマスコミ、サイトが扱っていますが、こちら魚拓)を。

>入学式の式辞、歌詞利用にお金かかる? 京大「正当な引用」 JASRAC「問い合わせただけで請求していない」

ボブ・ディランの歌詞を取りあげて話題になった京大の総長式辞に、JASRACが著作権料を請求?

ボブ・ディランの歌詞を使った京都大学総長の式辞にJASRACが著作権料を請求した、と京都新聞が5月19日報じた。「式辞への引用」にまで著作権料がかかるのか。BuzzFeedが双方に取材した。

京都大によると、式辞は4月7日の入学式で、山極寿一さんが読み上げ、ホームページにアップされた。すると、JASRAC(日本音楽著作権協会)から著作権料について連絡があったという。

(中略)

今回の利用は、「引用」にあたるのか。岡本弁護士は、こう話す。

引用についての裁判所の判断枠組みは近年揺らぎつつありますが、これまで……

『引用部分と自己の創作部分が明瞭に区別されていること(明瞭区別性)』 『自己の創作部分が主であり、引用部分が従であること(主従関係)』

などが要件または考慮要素とされてきました。

今回のウェブサイトの表示には、そういった点への配慮があり、また、出典の記載もあります。

入学式の式辞であるという点も考慮すれば、引用として認めてよいケースに思えます。

ただし、何が『公正な慣行』や『正当な範囲内』にあたるかなどはケースバイケースの判断となりますので、仮に今回の件が裁判になったとすれば、こうした点が議論になる可能性はあるでしょう

著作権法の目的は、「文化の発展に寄与すること」だ。

BuzzFeed Newsも今回、この一件を報じる目的で、歌詞の一部を記載している。JASRACから著作権に関する問い合わせが来たら、続報としたい。

 私もこの件については、さすがにちょっと著作権料を請求するのは著作権法の趣旨に反するんじゃないのという気がしますが、でも請求する気が全くなかったら、たぶん問い合わせの電話も入れませんよね、きっと(苦笑)。なお、この件は、茨木のり子の詩の引用もあったので、それも問題になりうる可能性があります。

今回の記事は、inti-solさんの複数の記事を参考にしました。感謝を申し上げます。


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