今日は違うネタの記事にしようと思っていたのですが、予定を変えてこの記事を書きます。
来日中のダライ・ラマ14世が超問題発言をしたようですね。記事はこちら(Yahoo!のキャッシュ)。
>チベット族僧侶らの焼身自殺理解 ダライ・ラマ「尊い行為」
2013年11月19日(最終更新 2013年11月19日 15時56分)
来日中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は19日、東京都港区の増上寺で若手宗教者との対話集会に出席し、中国政府のチベット政策に抗議するチベット族僧侶らの焼身自殺が同国内で続発していることに「自分の最も大切な命を他人のために投げ出し、世の中の不条理を問いかける尊く素晴らしい行為だ」と述べた。
焼身自殺に理解を示したともいえ、中国政府を刺激し、内外に波紋を呼びそうだ。
これは相当な問題発言ですね。まさに自殺を煽っているといわれたって文句は言えないでしょう。ていうか、これはまさに自分は安全地帯にいて他人に自殺をすすめるという、人間性すらどうかといわれたって仕方ない暴言ですね。こんなことは、中国のチベット支配の過酷さなどとは無関係です。なお、この元の記事(共同通信配信記事)についてのはてなブックマークでは、この発言を理解している人もいますが、個人的には、kechack さんの
>チベットに好意的な人が多い日本でも、この感覚はちょっと理解できないだろう。 2013/11/20
というコメントと、拙ブログがいろいろ世話になっているbogus-simotukareさんの
>そんなに尊い行為なら、ダライ本人がガソリンかぶって死ねよ。
というもの(ただしこれは前半です。追記された後半を現段階でご紹介しない理由は後で示します)が印象に残ったものです。また、festerfester さんの
>宗教戦争かあ…。中国の弾圧も苛烈なのだろうけれど「じゃあなぜあなた自身がやらないのですか」って言われてどう答えるんだろう。民族存亡の危機と考えれば僭越な物言いなのは百も承知だけれど、賛同ができない…。 2013/11/19
ほかにもy-mat2006 さんの
>日本側のシンパがどう取り繕うと、この人は宗教者の一人であり、なおかつ日本の公序良俗とはズレが存在することを認識するべき。/まあ、日本のダライラマシンパって十中八九、中国への牽制なんだろうけど。 2013/11/19
といったところも印象に残りました。ところがこれで終わりなら、「ダライ・ラマが問題発言をした」という話ですが、この共同通信(そして配信された記事を掲載した地方紙も)が上の記事をすぐに削除し、次のような(言い訳?)記事が掲載されたのです。記事の発表時間が日付が変わったばかりです。
>焼身自殺は「心痛む」 通訳がダライ・ラマの発言修正
2013年11月20日 02時31分
来日中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が19日、東京都港区の増上寺での対話集会で、中国政府の政策に抗議してチベット族僧侶らの焼身自殺が続発していることを「尊く素晴らしい行為だ」と述べたことについて、集会の通訳は共同通信に「驚くべき行為と訳すべきだった」と述べ、修正した。
通訳によると、ダライ・ラマは集会で、焼身自殺について「非常に心が痛む悲しい出来事だ」などと繰り返し答えた。焼身自殺の行為自体を肯定するような言葉はなかったという。ダライ・ラマはチベット語で答え、通訳が日本語で訳した。
(共同)
>中国政府の政策に抗議してチベット族僧侶らの焼身自殺が続発していることを「尊く素晴らしい行為だ」と述べたことについて、集会の通訳は共同通信に「驚くべき行為と訳すべきだった」と述べ、修正した。
どうなんですかねえ、これ。外国語で行われた講演その他での問題発言を通訳の誤りと称して隠すというのは常套手段でしょう(笑)。もしほんとにこれが通訳の誤りであるなら、その部分だけでなくある程度まとまった時間の動画とチベット語の発言を書き起こして翻訳をつけてHPなどで発表するべきじゃないですか。早急にしてくださいよ。
ただ少なくとも、ダライ・ラマ側がこの発言について「何が悪い」と居直らないのは、通訳の間違いかどうかという問題以前に私はちょっとほっとしています。このような発言を居直っていたら、非常によろしくない事態になる可能性がありますので。少なくともダライ・ラマおよびチベット亡命政府の公式の考えでは、
>焼身自殺の行為自体を肯定する
ということはないということでしょう。もちろんこんなことを肯定していたらお話にもなりません。先ほど引用したbogus-simotukareさんのブックマークは、その後半で
>追記:http://sankei.jp.msn.com/world/news/131119/asi13111923350005-n1.htmによれば批判の高まりに通訳が「誤訳だった」と言いだしてるようだが怪しい話だわな 2013/11/19
とお書きになっています(URLの記事は、上の東京新聞の記事と同一)。私も正直怪しい気がしますが、いずれにせよ動画と発言を完全公開してくだされば話の決着はつきます。その発表を興味深く見守りたいと思います。
そういうわけで、ダライ・ラマやチベットを支持する人も、この発言を肯定するのはやめたほうがいいですよ。ダライ・ラマはこのような発言をしたことを否定しているんだから。
さて、これとはまったく違う話ですが、チベット問題に関して、スペインで中国政府・共産党元要人への逮捕状が出ました。記事を。
>江沢民氏らに逮捕状=チベットでの「大虐殺」容疑―スペイン
時事通信 11月20日(水)9時54分配信
【パリ時事】スペインの全国管区裁判所は19日、中国の江沢民元国家主席(87)、李鵬元首相(85)ら政権幹部経験者5人の逮捕状を出した。1980〜90年代にチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」に関与した容疑とされる。
AFP通信などによると、裁判所は刑事告発した人権団体メンバーにスペイン国籍を持つ亡命チベット人がおり、中国当局が捜査していないことを理由に逮捕状を出した。スペイン政府は対中関係で難しい問題を抱えることになりそうだ。
人権団体は刑事告発で、江氏らがチベットでの「大虐殺、人道に対する罪、拷問、テロ」に責任があると主張。裁判所は「当時の政治・軍の高官が関与した疑いがある」との見解を示した。
この記事を一読して私が思ったのが、「胡錦濤には逮捕状が出なかったのかな」ということです。出ていれば記事に名前が出るでしょうから出なかったんですかね。前にも書きましたように、、胡錦濤は89年にチベット自治区共産党書記の立場で、チベット族の独立運動を厳しく鎮圧し、戒厳令まで公布しました。翌年には、「中国政府の立場は、一〇〇年、一〇〇〇年も変わらない。分離独立は認めない。認めるものは民族の罪人だ」と記者会見で語っています。胡錦濤に出なかったのは、彼は89年当時は中枢幹部でなかったという判断ですかね。北京五輪直前の08年の暴動の際は、彼はまさに最高指導者だったわけですが。
常識的に考えて、江沢民らが逮捕される可能性は低いでしょうが、前にチリの独裁者ピノチェトにもスペインで逮捕状が出たことがありました。胡錦濤への逮捕状が見送られたのは、あるいは彼が共産党総書記を退いたのが昨年、国家主席を退いたのが今年という事情もあったのかもしれませんね。江沢民は、国家主席は10年前、党総書記は11年前に退いています。
いずれにせよ、これからの時代、ほかにもこのような逮捕状が(元)国家元首やそれに準ずる人たちにも出るようになるんですかね。こちらも興味深く見守りたいと思います。