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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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最近読んだ本と今年文庫化された本から共通に感じたこと

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8月15日なので、戦争関係の記事を。

大阪から高速バスで帰京した日、バスの車中でこちらの本を読みました。

アジア・太平洋戦争と石油: 戦備・戦略・対外政策

内容をAmazonから引用しますと、

>石油に乏しい日本は、なぜアジア・太平洋戦争に踏み切ったのか。蘭領東インドとの輸入交渉、真珠湾攻撃での洋上給油作戦、石油備蓄と需給の予測、南方からの石油輸送と海上護衛戦の実態、本土空襲と製油工場の被害などを考察。石油のほか艦船・航空機など戦備に関する豊富なデータをもとに、あらゆる資源を動員した総力戦の実態と末路を解明する。

というものです。著者は、これもAmazonから引用しますと、

>1946年鳥取県生まれ。早稲田大学第一法学部卒業後、日本経済新聞社、トヨタ自販系研究所に勤務。石油公団に入り通商産業省調査員、ハーバード大学客員研究員。石油公団パリ、ロンドン各事務所長、理事などを歴任。2016年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

著者はフリーのジャーナリストとして海外で取材活動をしたりとなかなかユニークな経歴の持ち主です。それで、実はこのような著書もすでに発表しています。

石油で読み解く「完敗の太平洋戦争」

世界がわかる石油戦略

 

日米開戦と人造石油

著者は、あらためて日本現代史と軍事史を学ぶため、一橋大学社会学部の吉田裕教授(現名誉教授)に学び(なお吉田氏のほうが著者より8歳年下です)、博士号取得に至ったわけです。その努力には敬服します。

それで内容紹介にもあるように、日本が総力戦を行うに際して、石油の確保というのが大変な問題でした。この本の中で私が印象に残ったところを紹介しますと、それで日本は、オランダ領東インド小林一三商工大臣を派遣し、1940年9月13日から交渉を開始します。このあたりが詳細に書かれていて、大変勉強になりました。小林は、いうまでもなく阪急電鉄のトップであり、日本の歴史に残る大実業家ですが、正直やはり商工相という政府高官として外国とこのような困難な交渉をするほどの能力はありませんでしたから、けっきょく交渉はうまくいかず、召還されてしまいます。小林は、近衛内閣時のこの商工相就任がたたって、敗戦後に公職追放の憂き目にあいますが、このあたりを読んでいても、その見通しの甘さ、悪さにはかなりあきれ返りました。本を読んでも、日本が確保できる石油の量がどんどん厳しくなっていく過程がうかがえます。

さて今年ちくま学芸文庫から、古典的ともいえる名著が文庫化となりました。

餓死した英霊たち

著者の藤原彰氏はすでに故人ですが、吉田裕教授の大学院の師匠にあたります。つまり岩間氏は孫弟子になるわけです。なお吉田氏は大学は東京教育大学なので、指導教員は藤原氏でなく大江志乃夫氏です。

それでこの本では、日本軍の兵士で太平洋戦争で戦死した原因は、広義の餓死によるものが半数以上を占めるということが論じられています。文庫本は持っていないので、手元にある単行本

餓死(うえじに)した英霊たち

から引用しますと、藤原氏は結論として、

>今までに各地域別に推計した病死者、センチ栄養失調相による広い意味での餓死者は、合計で一二七万六二四〇名に達し、全体の戦没者二一二マン一〇〇〇名の六〇%強という割合になる。これを七七年以降の戦没軍人軍属二三〇万という総数にたいして換算すると、そのうちの一四〇万前後が戦病死や、すなわちそのほとんどが餓死者ということになる。(p.138)

としています。この割合や数にはいろいろ異論もあるでしょうが、ともかく大変な数の餓死者を日本軍が出したは論をまちません。

そしてその理由を藤原氏は論じますが、ここでは「第二章 何が大量餓死をもたらしたのか」から、3つの見出しを引用します。

>1 補給無視の作戦計画

2 兵站軽視の作戦指導

3 作戦参謀の独善横暴

どれもすべて「ごもっとも」ですが、そうなると岩間氏の本も、けっきょく同じようなことを感じます。将来的な石油の確保の可能性ということを考えれば、とてもとても戦争なんか起こしたり継続できるものでもありませんでしたが、米国から禁輸されたら南方から石油を調達するとか後先のことを考えずその場しのぎのことをやっていてけっきょくどうしようもなくなったというのは、だいたい3つの見出しと似たようなものでしょう。オランダ領東インドとの交渉などは軍部でなく日本政府が主導したものですが、それにしても独善的な部分や図々しさなどは軍部と酷似しています。

また、岩間本でも、軍部中枢が自分たちに都合の悪い情報をきいて聞かぬふりをしつづけたことが指摘されていますが、藤原本でも、

>情報の軽視

という章で、

>対米英線突入に当たり、作戦部はドイツの勝利を確信して開戦に踏み切ったのだが、情報部は必ずしもドイツ必勝を信じていなかった。ドイツの英本土上陸作戦はできないと英米課が判断したり、ソ連の崩壊はないとロシア課が結論を出していたのに、作戦課は情報専門家の判断を無視して、自分の都合の良いように、作戦化限りで勝手に醸成判断をしていたのである。(P.148)

という指摘があります。

それで私が改めて感じたのが、ほんと日本政府も日本軍も、まともな分析も冷静な情勢判断もないなあということです。そんなことは初めから知っていますが、やっぱり改めてそう考えます。道理という意味で私は戦争には反対ですが、合理性という意味合いでもやっぱりあまりにひどすぎるというものです。

で、たとえば現在でも北朝鮮問題などでこのような非常識な分析が跋扈しているのが現実でしょう。冷静な情報分析や判断がどれくらい日本政府の対北朝鮮政策などにフィードバックされているか、大いに疑問です。少なくとも田中氏のような人物を外務省から追い出したようなお粗末な現実は、いくら批判しても批判しつくせるものではないでしょう。

15日の終わるぎりぎりの段階での記事の発表をお詫びいたします。


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