旧聞ですが、市原悦子が亡くなりましたね。記事を。
>市原悦子さん死去、82歳 「家政婦は見た!」主演
2019年1月13日22時29分
テレビドラマ「家政婦は見た!」の主演や「まんが日本昔ばなし」の語りなど、幅広い役柄で親しまれた俳優の市原悦子(いちはら・えつこ=本名塩見悦子〈しおみ・えつこ〉)さんが12日、心不全で死去した。82歳だった。通夜は17日午後6時、葬儀は18日午前11時から東京都港区南青山2の33の20の青山葬儀所で営む。葬儀委員長は所属事務所ワンダー・プロダクションの熊野勝弘社長。
【特集】市原悦子さん死去
千葉市生まれ。中学で演劇部に入り、県立千葉第一高校(現・千葉高校)でも演劇に取り組んだ。1957年に俳優座へ入り、平幹二朗さんらと共演する。
一躍名を広めた代表作は、83年から2008年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で放送された「家政婦は見た!」シリーズ。雇われ先で人間関係をのぞき見る好奇心の強い家政婦を演じ、お茶の間に親しまれた。他にも多くの2時間ドラマに出演。とぼけた刑事役やバスガイド役などでも庶民的な魅力を発揮した。
1975年から94年までTBS系で放送された「まんが日本昔ばなし」では、常田(ときた)富士男さんとともに語りを担当。ユニークな語り口で独自の世界観を打ち出した。90年には映画「黒い雨」で、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。96年のNHK大河ドラマ「秀吉」で演じた秀吉の母なか役でも話題に。2016年に大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」ではヒロインの祖母を演じていた。
空襲や疎開を経験。「不自由だった戦争中の小学生時代が今の自分をつくった」と語り、80年代以降は戦争童話の朗読などにも積極的だった。昨年放送のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」では語り役に決まっていたが、体調不良により降板。13日未明放送のNHK「おやすみ日本 眠いいね!」に声で出演予定だったがかなわず、「こんな年になって盲腸になるなんて嫌だわ」と番組にコメントを寄せていた。
俳優座の養成所で同期だった脚本家のジェームス三木さん(83)は「ゆっくりと感情が伝わるようにセリフが話せる抜群の俳優さんだった。哀愁があるのも魅力で、とても残念です」と話す。64年の舞台「ハムレット」で共演した仲代達矢さん(86)は「演劇の役者にとっては、声というものが猛烈に大事。市原さんは、声の質をもってものを言う才能を、先天的に持っていた。天性の、俳優になるべき俳優でした」と語った。
上の記事でもそうですが、彼女について語られる場合、どうしても『家政婦は見た!』と『まんが日本昔ばなし』の2つは外せないようですね。しかし彼女は、1950年代から映画やテレビドラマなどにも出演していたし、若い時期から使える人だったようです。なお、かの大山のぶ代も彼女と同期です。俳優座に入ってすぐ賞をもらっているくらいですから、抜きんでた才能の持ち主だったのでしょう。
それで上の記事でも
>とぼけた刑事役やバスガイド役
とありますが、実際には彼女は、ほかにもたとえばTBSの2時間ドラマでは、
>西新宿俳句おばさん事件簿シリーズ - 主演・里宮初子 役
バスガイド愛子シリーズ - 主演・徳丸愛子 役
弁護士高見沢響子シリーズ - 主演・高見沢響子 役
など演技の幅も広い人でした。バスガイド役というのは、真ん中のシリーズでしょうが、これの次に弁護士役が回ってきたわけです。で、当然彼女は映画出演もしていますが、私が印象に残るのが、『青春の殺人者』です。
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この映画での彼女は、水谷豊の息子に殺される役を演じていました。過保護で息子を溺愛しながら殺されてしまう女性を演じるのも、彼女からすれば、ちょうど同時期に始まった昔ばなしのナレーションなどと変わらぬものだったのでしょう。ちなみにこの映画は、実際の事件をモデルにした中上健次の小説を原作にしていますが、犯人の男性(この記事を執筆時点で死刑確定で東京拘置所に在監中)は難関校の千葉県立千葉高等学校の卒業で、市原は彼の先輩にあたります。
それで「また原田美枝子の話かよ」と呆れられるでしょうが、上の映画に出演している彼女もまた、すごい演技の幅が広いですよね。この映画は1976年に公開されましたが、彼女は17歳にして大胆なヌードシーンを披露、あまりに過酷な撮影だったので、
>以前美枝子と俺とでトークショーをやったことがあったけど、美枝子は映画を見たことがないって言ってて、よっぽど嫌いなのかと傷ついたけど
と長谷川和彦監督も語っているくらいです。
ちなみに同じサイトに、
>10代・20代・30代・40代で脱いでいるのは原田さんだけ。犯罪級の艶さ。これは両親殺しちゃう
という発言もあり、そんだけ役者根性がすさまじいの人なのでしょう。
で、私昨今彼女の出演した新作映画を2本(こちら、こちら)観ましたが、ニューヨークの日本人クラブでママをやっている彼女は、いかにもそういう人に見えたし、筋ジストロフィーの患者の主治医をやっている彼女は、本当に医者っぽく見えました。そんなん演技で飯を食っているのだから当たり前なのかもですが、やはりすごい演技力なのだなと改めて思います。
さて、たとえば小林薫なんて人も、例は何でもいいですが、『君は海を見たか』での教師役や『深夜食堂』でのマスター役なんかを見ると、いかにもいい人に見えますし、『ナニワ金融道』での金貸し役なんてのは、いかにも嫌な奴という印象があります。私はもちろん、演技とその人の人格なんてのは別であるなんてことは知っていますが、それでも俳優中原丈雄のことを「怖い人かな」と思っていたら、まったくそうでない(ファンに怖かったら相当なものですが)ことを知り、またご当人に一番印象に残っているのは『元カレ』ですといったら、あまりいい顔はされませんでした。やっぱり「ああいう人間に思われたら心外である」という部分があったのでしょう。
俳優も、自分の演じた役を恥ずかしがることもあるらしい前「スポーツニッポン」で、自分の自叙伝を語っていた小野寺昭が、今実物がないので正確な引用はできませんが、大要、悪役をやっている時「こういう悪役をやっているけど実はこの人いい人なのよ」と思われているようではだめだ、本当の悪人に思われなければ、という趣旨のことを述べていました。当然でしょうが、やはりそう思われなければいけないのだから、役者というのも時には因果な商売でもあります。