先日の産経新聞の記事より。
>【政治デスクノート】「真の憲法族」が消える
(略)
岐路に立つ「新憲法制定議員同盟」
議員同盟は、昭和30年11月の自民党結成直前の同年7月、後に首相になる岸信介氏を会長に発足した「自主憲法期成議員同盟」がルーツだ。平成19年、憲法改正を国民運動に広げたいとして今の名称になり、今日に至る。現職だけでなく元職の国会議員も参加し、経済3団体や日本青年会議所なども実質的に関わる組織だ。
ところが、新憲法制定議員同盟は現在大きな岐路に立たされている。まずは高齢化と現職議員の減少だ。中曽根氏は100歳、幹事長の愛知和男元防衛庁長官は81歳で、ともに元職。中曽根氏は昨年の大会を欠席した。事務局長の柳本卓治参院憲法審査会長(74、自民)は、今夏の改選を機に議員を引退する。
所属議員数は元職を含めて約170人。現職になると100人程度になり、ほとんどが中堅以上。しかも議員同盟で積極的に活動している現職になるとひと握りでしかない。
もう一つは、超党派の議員連盟でありながら、現職の圧倒的多数が自民党であることだ。改名当時は旧民主党からの参加も少なくなかった。現在の非自民の現職は、松沢成文希望の党代表(60)や松原仁・元国家公安委員長(62)ら1割も満たない。立憲民主党の枝野幸男代表(54)のように「改憲」を掲げていた野党議員も少なくないが、ほとんどは参加していない。
議員同盟は、後継者問題が喫緊の課題であるし、組織の先細りが想定されるのだ。
(略)
「ポスト中曽根」は安倍首相以外見当たらず
「ポスト中曽根」は、見渡す限り、現在の自民党総裁である安倍晋三首相(64)くらいであり、熱心に憲法改正を世論に訴えているのも安倍首相のほかは見当たらない。
安倍首相は総裁任期中の憲法改正実現を掲げ、自民党は9条への自衛隊明記など4案をまとめている。しかし、主要野党が衆参の憲法審査会の出席に消極的になっていて、国会で議論すら始まっていない。
2月10日の自民党大会で、安倍首相は「憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではないか。今度は私たちが政治の場で責任を果たしていかなければならない。皆さんとともにその決意を誓い合いたい」と訴えた。自民党では憲法改正の機運を高めるための運動も計画している。それでも、憲法改正の熱が自民党全体からは伝わらない。個々の議員が憲法改正に前向きでなければ国民的運動に広がるわけがないのだ。
(略)
憲法の「ポスト安倍」はいるのか。同時に、憲法改正をライフワークに掲げ、国民運動にしようと取り組む国会議員はどれだけいるのか。国会の中で憲法を論じる「憲法族」なる者は存在するとしても、「真の憲法族」は消滅の危機に直面している。
(後略)
筆者は、
>政治部次長 今堀守通
という人物です。どういう人かは知りませんが、産経の幹部であることは間違いない。
>国会の中で憲法を論じる「憲法族」なる者は存在するとしても、「真の憲法族」は消滅の危機に直面している。
「真の憲法族」なんていう産経の造語には苦笑しますが(「改憲族」とでもすればいいじゃないですか)、つまりは産経新聞にとっては、極右改憲命みたいな政治家でなければ、「憲法族」の名に値しないわけです(苦笑)。どういうドグマなんだか(笑)。
が、それはともかく、私が興味を持ったのがこちら。
>憲法の「ポスト安倍」はいるのか。
あー、ついに「ポスト安倍」っていう言葉が出ちゃったなという感があります。つまり、少なくともこの今堀氏なる人物は、安倍が首相である間に、自分たちが満足するような改憲は難しいだろうと考えているということです。
この記事を読んでも、なるほど、
>「ポスト中曽根」は、見渡す限り、現在の自民党総裁である安倍晋三首相(64)くらいであり、熱心に憲法改正を世論に訴えているのも安倍首相のほかは見当たらない。
> 2月10日の自民党大会で、安倍首相は「憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではないか。今度は私たちが政治の場で責任を果たしていかなければならない。皆さんとともにその決意を誓い合いたい」と訴えた。
とは書いています。しかし今堀という人が、安倍が改憲に非常に熱心であると考えているようには私には見えませんね。むしろ「安倍の改憲の話なんか、口先だけだ」と考えているように見えます。この記事を読んだ限りでの私の感想を書けば、あんまりこの人が安倍の改憲に期待しているようには見えませんね。
私も現状、この人の意見が産経の社論だとまではいいませんが、少なくとも政治部の最高幹部といっていい人がこういうことを書き、そしてそれが産経のHPにも掲載されているという現実は、かなり興味深いと思います。
あ、断っておきますが、護憲派の私としては、だから安倍の改憲なんて甘く見ていいんだなんて考えてはいませんよ。最大限の注意と批判をしていく所存です。が、それとこれとは話が違います。
さてさて、2月11日といえば、産経新聞としては極めて神聖な日でしょうが、その日にこのような社説が発表されるのも、それなりの意味があるのでしょう。
【主張】自民党の運動方針 憲法改正へ機運の形成を - 産経ニュース
記事の趣旨自体は、安倍も自民党も、改憲なんて全然一生懸命じゃないじゃないかという苦言ですね。
>首相も自民党も、憲法改正のかけ声は高らかだ。けれども、国民の間へ分け入って、改正の必要性を訴え、賛同の輪を広げる努力は必ずしも十分ではなかった。
現段階口先だけだといっているに等しいじゃないですか(苦笑)。
私が繰り返し指摘しているように、右翼も産経新聞も自民党も、安倍晋三に驚かんばかりに甘い対応です。この甘い対応がなければ、安倍が首相に復活してそれから6年以上の首相をやっているなんてことはあり得ない。で、安倍自身が所属する自民党の対応はともかく、右翼や産経新聞がなぜ安倍にここまで甘いかといえば、いろいろな理由があるでしょうが、やはり最終的には「改憲」なんでしょうね。
安倍が、(予想の範疇ですが)中国に対して反中の態度をやめたり、靖国参拝を断念したり、河野談話撤回をしなかったり、北方領土は2島返還でOK(産経新聞も、取り巻き右翼(たとえば櫻井よしこなど)も、この件ではいい顔をしていませんでしたが、安倍はロシアが乗ってきたら2島返還で手を打って、平和条約を締結したでしょう)とか、あるいは森友とか加計とか先日の統計不正など、論外の沙汰の不祥事があってもひたすら安倍をかばってアンチ安倍を罵倒しまくったのは、改憲で本気で動く可能性のある有力政治家が安倍しかいないという考えがあるのでしょう。いや、反中や靖国参拝断念や、河野談話撤回をしていないと、2島返還で手を打ってロシア側と平和条約を締結する、ということは大変いいことだと私は考えますので、私としてはそれでいいのですが、右翼や産経新聞の考えはそうではないでしょう。
もちろん産経や櫻井ほかのブレーンからすれば、ポスト安倍で安倍ほど自分たちを重用してくれる首相が出てくる可能性は皆無ですから、最大限長く安倍が首相でいてほしいと願望するのは当然でしょうが、しかしそれも、安倍が改憲で動いてくれればです。
で、あからさまには言わずとも、やはり連中の心の中には、「あんだけ我々が支援しているんだから、改憲でもうすこし動けよ」という気持ちがあるんじゃないんですかね。なにしろ上でご紹介した記事など
>憲法改正へ機運の形成
ですから(苦笑)。よし、参議院選挙で大勝して、今年こそ改憲だ、なんていう意気の上がるものではない。
ずいぶん以前安倍晋三のことを口先だけの男だといったら、いや、安倍さんは口先だけでないと反論されたことがあったので、それにまた反論しましたが、私を批判した人が今でも安倍支持なのかはもちろん知りませんが、こういう産経の記事を読んだら、その人はどう考えるのか、それはちょっと興味があります(笑)。
もっともそういうことを言い出せば、安倍なり自民党からすれば、議席数はじゅうぶんであり、また内閣もそれなりの支持率(40%台の支持率は、「高支持率」とは言えないでしょう)だが、といって自分たちの政策や極右理念が国民から本気で支持されているとは考えていないんでしょうね。かなりの部分が惰性の支持であるという認識でいるのでしょう。安倍の「民主党政権は悪夢」発言も、つまりは自分たちの実績があんまり自慢できないと考えるからのものですし。まあまともな人間なら、あんな発言はしませんが(笑)。現段階、改憲を声高に主張しても損だという認識なのかと考えます。
その認識自体が誤っている(道徳的な意味でなく、現状の判断という意味です。念のため)とは思いませんが、産経や極右の連中からすれば、それでも無理にであっても改憲を目指すことを安倍に期待しているはずです。しかし現状そうでない。安倍の野郎散々こっちの世話になっているくせに、その態度は何だと考えている人は、たぶん産経新聞内部でも少なくないのでしょう。
改憲なんて、わざわざ機運をつくるなんていう趣旨のものではないでしょうが、改憲は安倍を積極的に支持している人たちの最後のよりどころなのでしょう。いや、もちろん私は護憲派だしアンチ安倍ですから、現状はそう悪くもないですが、いずれにせよ、産経新聞ほか安倍を徹底的に支持している連中は、いつまでこういうデタラメな自己欺瞞を続けるのか。安倍が首相を辞任する日まで続けるのでしょうが、その時日本の政治はどうなっているのか、産経は、その時どういう記事を書くのか、いろいろ興味深いものがあります。いやもちろん私は、最大限早く安倍が首相を辞任することを望んでいます。安倍のような人間がえんえん少々を続けていては、いろいろなところで迷惑をこうむります。