bogus-simotukareさんからコメントをいただき、また記事でも拙記事について触れていただきました。
「どうもなあ」と言わざるを得ない遭難死コメントを引用します。
>今年の開高健ノンフィクション賞(集英社主催)は、河野啓「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」 (bogus-simotukare)2020-07-26 07:49:31[https://www.sankei.com/life/news/200725/lif2007250011-n1.html
第18回開高健ノンフィクション賞(集英社主催)は、河野啓さんの「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」に決まった。賞金は300万円。河野さんは愛媛県出身。北海道放送に入社。ディレクターとしてドキュメンタリー番組などを制作してきた。
(引用終わり)
既に出版された本に与えられる賞では無く、「開高賞」に応募し、受賞した作品が「集英社から刊行」なので現時点では、河野氏がどんな文章を書いたか(栗城氏を無批判に美化しているのかどうか)は分かりません。
とはいえ、いくら「熱烈なファンが一部にいたから」といって、彼のやっていたことには社会的意義は認められないでしょう。ただの無謀登山でしかないと思います。
まあ、彼について書くノンフィクションもあっていいのかもしれませんが賞まで与えるべき話なのか。
俺が選考委員なら絶対に受賞作には選ばないと思います。
おお、あの栗城史多氏についての本が出版されるのかです。
bogus-simotukareさんもお書きになっているように、開高健ノンフィクション賞というのは、この賞に応募する作品を審査する賞です。したがって現段階どのような内容かはわかりません。さすがに栗城絶賛本ではないとは思いますが、はたしてどうなのか。
栗城氏という人物は、正直特に遭難死してからはやはりいろいろ批判的な声が多い人です。前の記事での引用以外でも、たとえばこちらの記事では、
>意識高い系(笑)登山家(下山家)とも揶揄されていた栗城さん。人脈づくりに励むよりも、登山家としての能力を磨くトレーニングや努力に目が向いていたら・・・と思わずにいられません。
栗城さんのセルフブランディングに感動して勇気を貰うか、嘘偽りを含んだ過剰な装飾と取るかで、ファンになるか、適切な言葉ではないけれどアンチになるかが分かれるのではないでしょうか。
自己啓発やアフィリエイトブロガーとか一定数の信者獲得が必要な業界と、思考も行動も栗城史多さんは瓜二つです。
と彼を表し、またこちらの記事では、
> 世の中には何の罪悪感も感じることなく、平然と、息をするように嘘をつく人がいる。自分の嘘の物語に酔いしれ、嘘を嘘で塗り固める人生を送る人がいる。栗城史多さん、小保方晴子さん、佐村河内守さん、日垣隆さん、ショーンKさん、山写さん。とても興味深い人々だ。
特に栗城史多さんは嘘の大きさ、その影響力、そして自分の身を滅ぼした結果などを総合すると、インドのケチな詐欺師たちとは比べものにならないほどの偉大(?)な詐欺師だ。
栗城史多さんの人生には「盛大な嘘で多くの人を騙し続けて、最後は転落していった」という悲劇性と喜劇性が同居した、ある種のおかしみを感じる。それも登山家として初期の段階でついた小さな嘘を嘘で塗り固めるうちに、降りるに降りられなくなったのだろう。気になった人は「栗城史多」で検索してほしい。
> 最後に「詐欺師」という表現について。「栗城さんがうさんくさいのはわかるけど、詐欺師というのは言いすぎでは」という反応があったので。
確かに栗城さんは刑事・民事ともに告訴されたり裁判沙汰に発展したことはありません。しかし「継続的に嘘を重ね、その嘘の物語を語ることで、多くの人から金銭などのサポートを受けていた」という点で、紛れもない詐欺師だと思います。彼が嘘に自覚的ではなかった、周囲に担ぎ上げられたのだという意見もあるけど、自分がどこまで登ったのか、本当に一人で登ったのか、といった事実はもちろん彼自身がよくわかっていたことなので、最初から人を騙す意図があったのは間違いありません。
「たとえ嘘が混じっていたとしても、栗城さんの語る言葉に救われた人がいるのだからいいじゃないか」という意見は明確に否定しておかなければいけません。エベレスト登山という厳密な記録が求められる世界で「俺ルール」をやってはいけない。それは非難されるべき卑劣な行為です。
彼が宗教家、教祖だったら、何を言っても別に構わないんですけどね。
とお書きになっています。
前に私が書いた記事で、引用はしなかった「まとめ」がありますが、一部抜粋して引用してみます。
>大学の先生が栗城史多さんの思い出を語る
栗城君もかよ。
大震災の時にやりとりした以降、連絡してなかったなあ。
ひどい目にも遭わされたけれど、それ以上に得るものがあったよ。
訳わからんけどあれだけ面白い教え子は出てこないだろうな。
悲しいね。
本当にギャグ漫画のキャラみたいな男だった。せんせいお世話になってますから今日はおごりますって飲み会誘ってきてさ、最後の最後でお財布カラッポでしたおごってくださいとか、学園祭のときにアフロにグラサンのフンドシで犬小屋で作った神輿に担がれてロケット花火を撒いたり、
後夜祭でオレの研究室のPCとプロジェクターを勝手に抜いて校舎の壁に謎の映像を投射したり、先輩の卒業式にドテラと一升瓶もって乱入しようとしたり、翌年の卒業式には研ナオコの真似だかで勝手に100キロ先からマラソンやり始めたり、大学中退したくせに5日間で戻ってきたりほんと訳わからなかった。
世の中には本当にとんでもない外れ値の人がいて、そういうベラボウな人を常人のものさしで測っちゃいけない。ただ仰ぐのみ。そう思ったつもりがずいぶんと巻き込まれた。でも最高に面白かった。
栗城君、今頃、三途の川あたりで六文銭忘れましたって仲間とシンクロとかやってそうだ。
一番最初に栗城君に会ったのは、変な噂のあとだったと思う。
初対面の女の子に次々とそこいらの石をプレゼントしている変な学生がいるって噂。それってペンギンの求愛行動じゃないか。
もう一つは地元の農作物を札幌の三越前で売りたいと教授たちに何度も熱心に相談に来る学生の噂。
その後学祭で、顧問をしてたDJサークルのブースでブレイクダンスサークルが踊るので段ボールを貼っていたら、無関係のTシャツの男がたたっと来て、いきなりバックスピンを決めた。歓声が上がった。なぜかタイガーマスクの覆面を被ってた。背中血だらけ。バカ?
そのバカが栗城君だった。
タイガーマスクはそのままどこかに消えてしまったので、あの阿呆は誰だって聞いたらクリキだって言う。ペンギンの求愛行動をやっているのも、三越前で農作物売っているのもみんなクリキだった。そのあと学内で捕獲してすぐに仲良くなった。まわりにいる学生もみないい感じのバカだった。
あるとき、いきなり「マッキンリーに登りに行きますうふふ今入山許可願のメールを送るところなんですよ」と英文を見せられた。何だこりゃクリキイズネームとかそんなレベル。当時のexcite翻訳にペーストしただけ。
スルーしてたら目の前でそのままメールを送ってしまった。ダメだこりゃ。
みな添削して許可が下りてもヤバイからスルーしてたと思う。
その後、「返事来ました~。入山許可下りましたうふふ」と嬉しそうに紙を持ってきて、英語読めないのに何で許可だってわかるんだよって突っ込んだら、「NOTって字が文章にありません」ってえばっていた。
本当に入山許可だった。
一番最初は本当に登山資金がないようだった。マッキンレーを選んだのも他の山より格安だったからですとか、レーションが買えなくて生米を持って行ったら台湾隊に笑われたと言っていた。スポンサーもつかないし、カンパだってわずかだったと思う。空港から山までだって安バスで行ってたし。
栗城君たちの姿が見えなくなって、出発したのかなと思ったら、いきなり研究室に電話が掛かってきて
「助けて下さい。現地までの足を忘れてました。バスの予約をして下さい。山は登れる自信があるんですが空港から山まで行ける自信はないですうふふ。大学下の喫茶店までシキュー来て下さい」
たしかに、交渉に交渉を重ねて、今金町の農作物を札幌で一番賑やかな場所でPRをするイベントを成功させた地元思いの学生だった。はたまた、友達を驚かせようと、思いつきで高いマンションの壁を伝ってベランダから乱入するやらかし学生だった。
でもまだ当時、彼は何者でもなかった。
(後略)
前記事でも書きましたように、私の印象では、かれは双極性障害あるいは(相当強い)発達障害があるように感じますね。おそらくですが、彼の支離滅裂な行動は、そういった彼の精神の問題と不可分なのでしょう。
それで彼は、凍傷で指を9本切断してもなおエベレスト(チョモランマ)挑戦に固執しました。正直これは、彼がエベレストから撤退する大義名分になる事態でしたので、むしろ彼はこのおかげで遭難死しないで済むというものだったわけですが、やっぱり彼はチャレンジしてそれで亡くなってしまったわけです。そして彼が引っ込みがつかなくなった事情には、マスコミ他から彼がやたら取り上げられたという現実もありました。テレビを例にとってみれば、Wikipediaによれば
>
タカアンドトシのどぉーだ! (2008年1月12日、北海道文化放送) その後複数回ゲスト出演(道産子登山家として緑色のTシャツを着用) ザ・ノンフィクション 山のバカヤロー 〜登山家 栗城史多〜 (2009年2月22日、フジテレビ) ザ☆ネットスター! 「エベレストで流しそうめん! 登山家栗城史多さんライブ配信」 (2009年10月2日、NHK BS2) サミット 極限への挑戦[51] (2010年1月4日、NHK総合テレビ) バース・デイ (2010年、TBSテレビ) 日本人初!単独無酸素でエベレストへ命知らずの登山家に密着(前編) (2010年1月25日、[52] 登山家 栗城史多 27歳 単独無酸素でのエベレスト登頂への挑戦 第2章 (2010年2月1日、TBSテレビ)[53] BSジャパン開局 10周年記念番組「美しい地球の讃歌」(2010年5月22日、BSジャパン) アナザースカイ (2010年7月9日、日本テレビ) 嵐にしやがれ (2010年7月10日、日本テレビ) 頂の彼方へ…栗城史多の挑戦 (2010年7月17日、BSジャパン) 人生が変わる1分間の深イイ話 (2010年8月2日、日本テレビ) 地球の頂きへ 栗城史多 エベレスト挑戦 (2010年10月24日、テレビ東京) たけしとひとし (2010年12月10日、日本テレビ)[注 8] 地球の頂きへ 栗城史多 エベレスト挑戦〜完全版(2011年1月3日、テレビ東京) 金曜日のスマたちへ (2011年2月25日、TBSテレビ) 遥かなる頂 (2011年8月14日、テレビ東京) ザ・ノンフィクション 山のバカヤロー2 (2012年5月6日、フジテレビ) No Limit 終わらない挑戦 (2012年12月23日、NHK総合テレビ)[54] 5度目のエベレストへ〜栗城史多 どん底からの挑戦〜(2016年1月4日、NHK総合テレビ)語り山本彩 NHKスペシャル “冒険の共有”栗城史多の見果てぬ夢 (2019年1月14日、NHK総合テレビ)という取り上げられ方です。特に2010年には相当いろいろ取材対象になっています。私も、「バース・デイ」で彼を観ました。2回でなく1回見ただけだと思いますが、あるいは私の記憶違いかもしれません。あまり印象に残らなかったのでしょう。
それで彼は、吉本興業とも提携したりと、人たらしというか、変な才能があったのでしょう。実際、彼の熱烈なファンもいるらしい。
ほかにも企業から一般ファンにいたるまでいろいろなところから金を集めたりというのも引っ込みがつかなくなった理由でしょうが、そういった部分がどれくらい受賞作では書かれているかがポイントですね。栗城氏個人の問題だったら、いまさら本にする必要もないでしょう。彼が相当話を盛ったり実態にそぐわないことを宣伝してたことはわかっている。彼自身よりも、そういった負の部分を知ってか知らずか彼を取り上げたり資金援助をしていたマスコミや企業、ファン個人にいたるまで、どのように彼を祭り上げてそして引き返せないところまで追いやったかということをどれくらい論じられているか。それは本を読まないとわからないので、いちおう読んでみたいと思います。面白かったら記事にします。つまらなければ書きません。
ところでbogus-simotuakareさんもご指摘のように、「開高健ノンフィクション賞」というのも、開高健は基本小説家であり、ノンフィクション作家(ライター)でもないように思いますがね。もちろん「ベトナム戦記」などはノンフィクションですが、基本小説家でしょう。たぶんこの賞の前身である開高健賞が、Wikipediaによれば
>対象作品については、「これまでの文学様式にこだわらず、フィクション、ノンフィクション、評伝にわたる、創造的な人間洞察に富んだ作品をもとめるもので、必然、冒険心とユーモアに富んだものが望ましい」としていた。
という趣旨のもとの賞だったので、それを継承したということなのでしょうかね。松本清張賞だって、良質なエンターテインメント小説を募集していて、ノンフィクションは現在のところ扱ってはいません。bogus-simotukareさんが記事に注釈で記しているように、現在の「開高健ノンフィクション賞」の審査員も、ノンフィクションライターといえる人がそんなに多いわけでもない。ちなみに審査員の1人である茂木健一郎は、栗城氏と知り合いだったとのことで、そのあたり彼もどれくらい受賞作の栗城評に賛同したのかどうか、興味深いですね。おそらく内容は、相当に栗城氏について厳しいことも書いてあるはずで(絶賛本ではさすがに賞はとれないでしょう)、いや、最終的には栗城氏に好意的な本なのか、それともどうなのか、ここも読んでみてのお楽しみとします。
bogus-simotukareさんに感謝して、この記事を終えます。
記事発表日のおことわり:最初この記事の題名は、「栗城史多という人の周囲についてどれだけ書けるかが問題だ」でしたが、今後また加筆等があるにしても基本的な執筆はすでにすんでいると思われますので、「栗城史多という人の周囲についてどれだけ書けているかが問題だ」と変更しました。