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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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やっぱり半藤一利氏ってトンデモじゃんとあらためて思った

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先日次のような本を読みました。2021年にNHKで放送された番組を基にした本です。活字が大きくて薄いのですぐ読み切ってしまいましたが、内容の濃さはすごい。戦時中の駐独大使である大島浩についての本です。彼が、どのようにアドルフ・ヒトラーやナチスに傾倒したかについて記しています。

ヒトラーに傾倒した男

私は元の番組は見ていませんが、本はとても興味深く拝読しました。著者は、NHKの記者(幹部の記者です)であり、番組では取り上げられなかった取材結果も本に反映しています。

で、この本を読んでつくづく思うのは、当時の日本のドイツ傾倒はすごかった、ですね。大島は、1938年から39年まで駐独大使を務めますが、独ソ不可侵条約締結で当時の平沼内閣が総辞職したこともあり、彼も39年末に依願免官となります。が、フリーになってからもドイツは大島をドイツびいきの有力者として重用したこともあり、後任の来栖三郎にかわって40年12月にまたまた大使に復活します。その後ドイツ敗北まで彼はドイツに有利な公電を打ち続け、ドイツ敗北後避難していたオーストリアで逮捕、米国に移送されたあと日本に押し戻され、帰国後逮捕、A級戦犯となり、自分の責任を否定する証言を連発。刑を定める投票で、1票差で死刑を免れ終身刑、1955年に釈放された後は隠遁生活を送り、著書や講演などもせず、75年に亡くなります。この本は、73年に彼が話した録音テープをもとに周辺取材、補強取材を行って放送された番組をもとにしたものです。

実は大島は大使を辞任して帰国していた際も、ドイツ外相のヨアヒム・フォン・リッベントロップとのホットラインまでありドイツ大使館にも自由に出入りしていたくらいであり、あえて言えば大使でなくなってかえって自由に活動ができたくらいだという感があります。本の中でも、

>「当時の大島は、正式な大使という肩書がないだけで、依然として日独関係の中心にいたのです。大島は、日本とドイツを強力に結びつける、いわば『黒幕』でした」

という米国の歴史学者であるカール・ボイド氏の発言が紹介されています(p.72)。ボイド氏については、次のような著書も翻訳されています。この本は、巻末にある参考文献にもありますね。

盗まれた情報―ヒトラーの戦略情報と大島駐独大使

それで私があらため思ったのが、「半藤一利氏ってほんとトンデモだなあ」です。なにしろ半藤氏ときたら、日本海軍のドイツ傾倒の理由を原因として

>某海軍士官がポロッと漏らしたんです。「ハニー・トラップだよ」と。つまりドイツに留学をしたり、駐在していた海軍士官に、ナチスは女性を当てがったと言うんです。それを聞いてから、ドイツ留学やドイツ駐在をした人に次から次へと尋ねたところ、半分以上は否定しましたけれど、三分の一くらいは認めましたね。どうやらアメリカとイギリスはそういうことはなかったようですがね。親米英か親独か。あるときからなだれを打って親独になった裏には、そんな情けない事情もあったんです。

>そういえば当時、「海軍はなぜあんなにナチスドイツに傾斜してしまったのですか?」と、これは何人かに聞いたのですが、「どうしてだろうねえ」などとみなさん口を濁していました。長らくこれが謎だったのですが、この十数年のち、ある取材で元海軍中佐がペロッとしゃべった。「あれはハニートラップにかかっちゃったんだよ」と。

駐在武官としてドイツに滞在しているあいだナチスは美人のメイドを日本の海軍さんに派遣したそうな。それでいつの間にかナチスの色仕掛けに籠絡され、気がついたらナチスびいきになっていたというわけです。

>陸軍は明治以来、ドイツ陸軍に学んできましたから、親近感を持つのもわかるんですが、イギリスに学んだ海軍が、なぜドイツに傾斜したのか。そのことが疑問で、旧海軍軍人に会うたびに訊いたんですが、みんな口を濁して答えないんです。 

ところがあるとき、海軍中佐だった千早正隆氏があっさり真相を語ってくれたんですね。つまり、ドイツに行った海軍士官はみんな女をあてがわれて、それで骨抜きにされたんですよ。

(中略)

半藤 アメリカへ行った武官は、そんなことはまるでなかったのに、ドイツへ行った武官はみんなすごくいい思いをして帰ってきた。それで、ドイツはいい国だと。実に下世話な話で、まことにつまらない話ですが、真相はそのあたりにあるようです。

といったような与太をほざきまくっているわけです。しかも宮崎駿のような歴史素人との対談本や少年少女向けの新書本、はたまた座談会本でこんなことをほざいている。素人さんや青少年あたりにデタラメを吹き込んでいるわけで、その罪深さたるや半端でない。これらの詳細については、下の2つの記事で詳述しましたので、興味のある方はご参照ください。

「ハニートラップ」なんてことで、そのような歴史の話を解釈するのはよろしくない(半藤一利氏って、こんなトンデモだったのという気がする)(上) 「ハニートラップ」なんてことで、そのような歴史の話を解釈するのはよろしくない(半藤一利氏って、こんなトンデモだったのという気がする)(下)

だいたい半藤氏のその珍説の論拠は、

>某海軍士官がポロッと漏らしたんです。「ハニー・トラップだよ」と。つまりドイツに留学をしたり、駐在していた海軍士官に、ナチスは女性を当てがったと言うんです。それを聞いてから、ドイツ留学やドイツ駐在をした人に次から次へと尋ねたところ、半分以上は否定しましたけれど、三分の一くらいは認めましたね。

程度のことですからね(苦笑)。こんなの「馬鹿も休み休み言え」「デマデタラメもいいかげんにしろ」「うそ八百ほざいてんじゃねえよ」「素人や青少年にフェイク吹き込むのもたいがいにしろ、嘘つきクズ野郎」ってもんでしょ。悪いけど。こんな根拠薄弱なデタラメをほざく人物は、「嘘つき」「クズ」と言われたってしょうがないでしょう。上で彼は、その珍説を半分以上は否定したが、1/3くらいは認めたと書いていますが、認めたって、それ信頼のできる発言なんですかね。そんなことをどうやって確認したのか。半藤氏がきいた人たちは、そういうことに責任をもって話ができるような立場の人たちだったのか。認めた人たちは、本当に海軍のドイツ傾倒がハニートラップのせいだと認めたのか。まったくもって信じかねますね。

で、私は以前の記事で、大島の反省の弁を紹介する際に

>まさか彼は、陸軍出身でドイツびいきだから関係ないなんてことは言わないでしょうね。

と書きましたが、たぶん半藤氏は、そういう指摘をされたら「大島さんは陸軍出身だから関係ない」って抗弁するんでしょうね(苦笑)。当時の時代の趨勢として、日本と同盟を組む可能性のある大国はドイツが筆頭だったし、米英仏だめ、ソ連論外となったら、それはドイツくらいしかないでしょう。海軍が英米びいきだからといったって、そんなのもはや関係ない話。

それにしても、座談本の中で、半藤氏につきあって

>保阪 ドイツではメイドの名目で若い女性を日本の武官と一緒に住まわせたといいます。これが実質的な現地妻だった。

なんてほざいていた(上の引用の「中略」の部分です)保阪正康氏(まあ、彼は、「それが海軍のドイツ傾倒の原因だ」とは言っていませんが)は、この本の中でも

>大島だけでなく当時の指導者や国民の多くが、ナチス・ドイツとヒトラーの勢いに惑わされていたことを忘れるべきでないとも強調した(p.147)

と語っているというわけで、これつまり保阪氏は、半藤説なんてデタラメじゃんと考えているということですよね。じゃ、あんたの座談本での半藤氏へのお付き合いは何なんだよという気がします。保阪氏といい、半藤説を対談本で拝聴していた坂本多加雄(故人)、秦郁彦のご両名といい、あんたたち、こんなデマを聞いて聞かぬふりして恥ずかしくないのか(笑)。まったくもってどうしようもないですね。

まあでもなまじ世間での評価が高い人がひどいトンデモなことをほざくこともあります。本多勝一氏の東洋医学の話などもご同様。本多氏の東洋医学の与太については、また記事を書きますので乞うご期待。


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