bogus-simotukareさんの記事で、また興味深いものがありました(bogus-simotukareさんがおつけになった注釈の番号は削除します。以下同じ)。
>◆過渡期を迎えたTICAD(佐々木優)
(内容紹介)
日本が「旗振り役」を務めたTICADが「中国の一帯一路」に押されて存在感を失ってる(佐々木氏の表現では『過渡期を迎えた』)との指摘がされています。
TICADとは、Wikipediaから引用すれば
>アフリカ開発会議(アフリカかいはつかいぎ、英語: Tokyo International Conference on African Development (アフリカ開発に関する東京国際会議)、TICAD(ティカッド)とは、日本が主催する、アフリカの開発をテーマとする国際会議。
ということです(注釈の番号は削除)。
その記事中複数の新聞記事が引用されています。
TICADで中国に対抗: 日本経済新聞2022.8.29
会員記事とのことで、bogus-simotukareさんの記事からの引用とさせていただきます。
> チュニジアの首都チュニスで27、28両日に開催したアフリカ開発会議(TICAD)は日本が中国へ対抗する舞台となった。資金力にものをいわせて援助攻勢をかける中国に対し、日本は人材教育や財政状況に目配りする「持続可能な成長」を強調した。
岸田文雄首相が表明した支援額は3年間で官民あわせて300億ドル。中国が2021年の中国・アフリカ協力フォーラムで示した400億ドルを下回った。首相が金額の規模よりも重点を置いて訴えたのは「人への投資」と「成長の質」だった。
首相は27日の開会式では「債務健全化の改革を進め、強靱で持続可能なアフリカを支援する」とも説明した。名指しはしなかったが、中国が借金のカタに途上国から重要インフラの使用権を得る「債務のわな」と呼ばれる問題が念頭にある。
首相の発言は中国への債務を縮小させるよう促す思惑があった。
今回のTICADへ参加した首脳級は20人で、前回2019年の42人から半減した。新型コロナ感染で首相が対面参加できなかった影響のほか、日本よりも中国との関係を重視した国があった可能性がある。
アフリカは「最後のフロンティア」と呼ばれる成長市場だ。国連加盟国の4分の1を占める一大勢力でもあり、どれだけ味方につけられるかは国際世論を形成する外交力につながる。
TICADを巡る日中のつばぜり合いは米欧を中心とする民主主義国と中国、ロシアなどの権威主義国の対立を反映したものにほかならない。
つまりこの記事すらも、
>資金力にものをいわせて援助攻勢をかける中国に対し、日本は人材教育や財政状況に目配りする「持続可能な成長」を強調した。
として、銭の額については、中国に全くかなわないと認めているわけです。
それで、こういうことで、中国に対して日本がいまさら張り合ったところで勝負になるわけないでしょう。記事中の
>「人への投資」と「成長の質」
>中国が借金のカタに途上国から重要インフラの使用権を得る「債務のわな」と呼ばれる問題が念頭にある。
首相の発言は中国への債務を縮小させるよう促す思惑があった。
なんてのも、援助の実態というよりは、単なる日本政府のプロパガンダでしかないでしょう。それで、こういう話って、前そういえば読んだことあったなあですね。こちらの記事です。2019年4月の産経の社説です。
【主張】インドネシア ともにあゆむ海洋国家に - 産経ニュース
>(前略)
ジョコ政権は経済成長の原動力としてインフラ整備の推進を掲げたが、日本が商談で先行していた高速鉄道建設が、二転三転し、中国に受注をさらわれたことは記憶に新しい。高速鉄道建設はその後、ずさんな計画が露呈し、工事は大幅に遅れることになった。
代わって成果となったのは、日本の支援で完成したジャカルタの地下鉄である。選挙直前の3月に開業した。
インフラ整備で目先の利益に惑わされてはならない。ジョコ氏には大きな教訓になったことだろう。インドネシアの2つの鉄道建設の対比は、日本の質の高いインフラ支援を如実に物語っている。インドネシアでの「成功」を積極的にアピールしていきたい。
(後略)
書いていることは同じです。
>インドネシアの2つの鉄道建設の対比は、日本の質の高いインフラ支援を如実に物語っている。
それでこれは3年前の話です。当時の実情は、この記事のようなことも確かにあったのかもしれませんが(詳細は知りません)、3年たてばこういうことでの日本の優位も、どんどんなくなっていくでしょうね。
たとえば、日本では地下鉄建設はもう飽和状態でしょう。いまさら新たに地下鉄を建設する自治体もないでしょうし、延伸もかなり限定的なはず。しかし中国は最近でも地下鉄建設がすさまじいですから、つまりは昔ながらの建設でなく最先端の建設に対応しているわけです。こういった形で、中国は、ハード面でも進歩が著しい。ソフト面も、当然中国だってどんどん援助のノウハウは蓄積しているし、それこそ世界中からこういう援助をしてくれという要望が殺到しているのでしょうから、そういうものに対して中国の国益とどうバランスを取って援助していくかなんてことも、どんどん巧みになっているでしょう。そういう現状で、日本の援助の方が役に立つなんていう話は、それこそ日本政府がするのなら、いいとは言いませんがまあ仕方ない側面もあるでしょうが、マスコミがそんな与太を堂々と報じてどうする(呆れ)。
だいたい援助なんてものは、金をくれるところが一番ありがたいわけです。質なんてのは、その次以降の問題。あたりまえでしょう(苦笑)。何をこんなわかりきったことを書くのか。産経新聞がこういうことを書くのはいつものことですが、日本経済新聞までがこんなことを垂れ流して、どこが経済専門紙の全国紙なのか(苦笑)。
というわけでこれらの記事を読んでいても、けっきょく
>TICADを巡る日中のつばぜり合いは米欧を中心とする民主主義国と中国、ロシアなどの権威主義国の対立を反映したものにほかならない。
なんていうことを指摘しているわけです。まあこういうことを書いてもしょうがないというレベルの話でしょうが、うんなもんアフリカ諸国からすれば関係ないでしょう。金をくれるほうがいいに決まっている。別に日本のアフリカ援助は、建前としては、アフリカのためにやっているものであり(それが日本のプラスにつながる)、中国との覇権争いのためではない。そしてそんなもの、いまさら中国に日本が太刀打ちできるわけもない。上の産経の記事は、既述したように2019年のものですが、最近のものはどうか。なお引用文中「中略」の部分は、ロシアにかかわる文章です。
【主張】TICAD8 中露の浸透看過できない - 産経ニュース2022.8.23
>「最後の成長フロンティア」であるアフリカを舞台に、中国やロシアは無謀な融資を行い、治安を請け負うなどで影響力を強めている。
強権統治を蔓延(まんえん)させる両国の手法は看過できない。米国などと連携し、対抗せねばならない。
北部チュニジアで27~28日開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)は日本が主導し、アフリカ諸国の首脳が参加する貴重な外交のツールである。日本の存在感を明確に示すべきだ。
バイデン米政権は先ごろ、アフリカのサブサハラ地域(サハラ砂漠以南)との関係強化に向けた米国の新戦略を発表し、中露両国のアフリカへのアプローチに対して明確に警戒感を示した。
中国には「商業的、政治的利益追求のため透明性や開放性を踏みにじっている」と指摘した。
(中略)
日米が実現を目指す「自由で開かれたインド太平洋」は、アフリカ大陸の東岸に及ぶ。アフリカでの強権や腐敗を排除し、法の支配を貫かなくてはならない。
けっきょく覇権争いにばかり興味があるわけです。アフリカにも大変失礼です(呆れ)。読売新聞はどうか。
社説:アフリカ会議 質の高いインフラで発展促せ : 読売新聞オンライン2022.8.29
>経済成長が見込まれるアフリカに世界の注目が集まっている。融資の透明性や人材育成を重視する日本の強みを生かし、存在感を高めたい。
日本が主導するアフリカ支援の枠組み「第8回アフリカ開発会議」(TICAD8)がチュニジアで開かれた。国際ルールに基づく開発や融資の促進を明記した「チュニス宣言」を採択した。
岸田首相は、今後3年間で官民合わせて総額300億ドル規模の支援を行う方針を表明した。このうち、3億ドルは食料支援に充て、アフリカ開発銀行と協力して行うことを明らかにした。
ロシアのウクライナ侵略で、アフリカには食料危機に陥っている国が多い。時宜にかなった支援を継続していく必要がある。
アフリカの人口は、2050年には現在より10億人増え、24億人に達する見通しだ。欧米や中国は投資を増やしている。
日本は1993年のTICAD創設を機に、アフリカのインフラ整備や医療保健分野の支援に尽力してきた。ただ、近年は中国が圧倒的な経済力でアフリカに進出し始めたため、日本の直接投資額は中国の1割程度にとどまる。
一方、返済能力を超える融資で借金漬けにする中国の投資は「債務の 罠わな 」として、アフリカでも警戒されている。
日本の支援の特徴は、相手国の財政状況を勘案し、公正な手続きで雇用創出などによる健全な発展に協力することだ。粘り強く取り組み、アフリカ諸国に民主主義の下での成長を促し、貧困などの課題解決を図ることが肝要だ。
日本は政府開発援助(ODA)で、途上国の鉄道敷設や道路整備を支えてきた。だが、施設の欠陥を放置したり、維持管理を 疎おろそ かにしたりしたことが原因で、インフラが使われなくなったケースが会計検査院に指摘されている。
現地のニーズを的確にくみ取るとともに、施設が有効に活用されているか点検することが大切だ。ODAのあり方を改善したい。
日本の支援でガーナに1979年に設立された「野口記念医学研究所」は、現在、新型コロナウイルス対策の西アフリカの拠点となっているという。こうした貢献を戦略的にアピールする外交を展開することが不可欠だ。
各国が1票の投票権を持つ国連で、アフリカ54か国の影響力は大きい。安全保障理事会の常任理事国入りを目指す日本にとって、アフリカとの関係が重要な意味を持つことを忘れてはならない。
なおこれはこの記事の趣旨とはまた別ですが、
>安全保障理事会の常任理事国入りを目指す日本
って、そもそも日本が国連の常任理事国になる見込みがあるのか。またなるべきなのか。私は、見込みがあるとは思わないし、なるべきとも思いません。まず仮に英国とかフランスとかが日本の常任理事国入りに賛同しているとしたって、そんなものはなれっこないことを前提とした賛成でしかないでしょう。日本が常任理事国に入るのであれば、当然日本以外のいくつかの地域大国も入ることになるでしょう。具体的には、ドイツやブラジルやインド、あるいはオーストラリアなども候補になりうるかもしれない。そうなれば、常任理事国の価値など相対的に下がります。そんなことを各常任理事国が認めるわけがない。
さらに、仮に日本が常任理事国になったとします。そうなれば、これはもう確実に「国際貢献」とか称してやれ海外派兵だ、改憲だということになるでしょうね。改憲が実現するかどうかはともかく、そういう話に必ずなります。
だいたい憲法9条の改憲をしようというのは、つまりは自衛隊の海外派兵を目標としているのでしょう。否定する関係者もいるでしょうが、でなければわざわざ改憲する意味がない。そういうものに賛成するわけにはいきません。
が、それはともかくとして。常任理事国入りしたいのなら、中国を敵に回してどうする(苦笑)。中国の同意なくして日本の常任理事国入りなんかあり得ないでしょうに。なに、日本は中国と敵対するために常任理事国入りするんですか(呆れ)? そんなん中国が同意するわけがない。あたりまえでしょう(笑)。
そもそも日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言(通称・日ソ共同宣言)だって、その締結の目的の一つは、Wikipediaから引用すれば、
>日本の国際社会復帰を完成させる国際連合加盟には、日本の加盟案に対して国際連合安全保障理事会常任理事国の一国として拒否権を発動するソ連との関係正常化が不可欠であった。
ということです。この条約の署名が1956年10月19日、発効が同年12月12日、日本の国連加盟が同月18日です。日本の常任理事国入りだって、そのあたりの事情は変わらんでしょうに。
では日本と中国のGDP推移を見てみましょう。世界経済のネタ帳さんより。
>名目GDP(USドル)の推移(1980~2022年)
です。こちらをご参照ください。こんなのどこをどう見たって勝ち目がないでしょう。日本は、日本ができる範囲でアフリカの援助をしていけばよいのです。
そう言う点でいうと、こちらの記事における中国問題の識者のご意見はどうか。
[深層NEWS]習近平氏演説は「とにかく個人的な正当性アピール」…国分良成氏 : 読売新聞オンライン
それで国分氏は、次のように発言しています。
> 防衛大学校前校長の国分良成氏と神田外語大の興梠一郎教授が17日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、16日に開幕した中国共産党大会で習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)が行った演説について議論した。
国分氏は「とにかく習氏の個人的な正当性をアピールしていた」と述べた。演説では2期10年の実績に言及しているが、習氏の外交や経済はうまくいっていないとして、「実際は成果がない。10年間、権力闘争に忙しかった」と分析した。
番組は見ていないので、この記事における国分氏の発言の要約が妥当なのかどうかは判断できませんが、上のグラフを見た限りでいえば、
>実際は成果がない。
というのはあまり妥当な発言とは思えませんね。習主席の経済運営が不十分で、ほかのやり方ならもっとうまくいったであろうという趣旨なのか。外交成果にしたって、上でご紹介したようなアフリカ進出、もちろん一帯一路(これらは経済の実績でももちろんあります)などもそれ相応の評価に値するでしょう。これらを成果がないとするなら、国分氏はどういうレベルなら「成果がある」と考えるのか。日本などお話にもならないということになりそうです。
ていうか、これ彼本気で言っているのかなあというレベルで疑問に感じますね。国分氏は、素人さんでなく現代中国の研究者です。そういう人がこういうことを言うか。これ、彼が
>防衛大学校前校長
という立場であるが故の恣意的な発言じゃねえのという気すらしますね。私による言いがかりだでは済まされないでしょう。なおこの国分氏批判のくだりは、bogus-simotukareさんの下の記事を参考にしていることを申し添えます。
いずれにせよ、こんなことで日本が中国と張り合えるわけがない。日本政府だって、いわばポーズとしての張り合いという部分も大きいのかもですが、このあたりは誰が何を言おうが、事実と現実で結果が証明されるだけでしょう。なおこの記事を書くにあたって、上に引用した記事のほか、bogus-simotukareさんのこちらの記事も参考にしました。感謝を申し上げます。