何をいまさらですが、安倍晋三を暗殺した山上徹也容疑者が起訴されましたね。記事を。
>「教団との関係知らしめたかった」殺人罪で起訴の山上容疑者供述
2023年1月13日 23時00分
安倍晋三元首相の銃撃事件で、奈良地検は13日、奈良市の無職山上徹也容疑者(42)を殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)の罪で起訴し、発表した。約5カ月半の鑑定留置を踏まえ、心神喪失などの状態にはなく刑事責任能力を問えると判断した。裁判員裁判で審理される見通し。
起訴状などによると、山上容疑者は昨年7月8日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、参院選の応援演説をしていた安倍氏の背後から手製のパイプ銃を至近距離から2回発砲し、殺害したとされる。
捜査関係者によると、山上容疑者は、宗教法人「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に入信した母が多額の献金をしたことで破産し、生活が困窮したと説明。教団を恨み、「教団と深い関わりのある安倍氏を撃った」と供述しているという。
県警は今後、山上容疑者の自宅で見つかった手製銃や火薬類についても、銃刀法違反や武器等製造法違反(無許可製造)、火薬類取締法違反(無許可製造)の疑いで追送検する方針。事件前日に奈良市内の教団関連施設が入った建物を銃撃したとする建造物損壊容疑でも追送検するという。
今後、裁判官と検察官、弁護人で争点を絞り込む公判前整理手続きを経て、裁判員裁判で審理が始まるとみられる。山上容疑者は殺人容疑を認めているといい、量刑が主な焦点になりそうだ。山上容疑者の弁護団は「職責として、引き続き(容疑者の)権利利益の擁護に努める」などとする談話を発表した。
事件を機に、教団側と政治家の接点が次々に判明。教団をめぐる高額献金の実態や、信者の親を持つ「宗教2世」の窮状にも注目が集まり、悪質な寄付の勧誘などを規制する不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が昨年末の臨時国会で成立、5日施行された。
以降は有料部分です。
で、1月11日の「朝日新聞」の記事に、東洋大学で犯罪心理学を講じている桐生正行教授が次のような談話を寄せていました。ネットの記事は見つからなかったので(こちらの記事の有料部分にあるのかもしれません)、直接書き写します。太字とか字の大きさのフォントについては省略します。
>(見出し)犯罪行為と同情心 区別を
東洋大学社会学部の桐生正行教授(犯罪心理学)の話
今回のような社会への影響が大きな事件では、世の中の閉塞感や政治への不信感によるいらだちを、山上容疑者への共感につなげている人も少なくないと思う。しかし、それは危険だ。犯罪行為と事件後に見えてきた背景を切り分け、社会に対する不信感や不満と容疑者の動機への同情心は意識して区別するべきだ。
ここで桐生教授のおっしゃっていることに、特に私は異を唱える気はありません。彼の主張や意見に、特に問題や間違い、よろしくない部分はないと思います。
が・・・・でも私からすると、このような桐生流の「正論」をぶつけたところで、山上容疑者や、山上容疑者と同様ひどい目にあっている人たちからすれば、そんな意見は何の役にも立たないなと思うばかりです。
昨日私は、パーソナリティ障害があると人物に殺されたと考えられる生活保護受給者は、けっきょく(理由はともかく)行政から見捨てられて殺されたのだろうと指摘しました。で、けっきょく旧統一教会(統一協会)によって徹底的に搾取され金をむしり取られた人々も、よりスケールが大きい形で、行政などから見放されたのだと思います。
で、その行きついたところが安倍晋三の、旧統一協会の集会におけるビデオメッセージだったわけです。安倍からすれば、昔から岸信介以来の付き合いである組織へ、軽い気持ちへの参加だったのかもですが、これは正直に言います。いくら安倍晋三だからといって、元首相が、カルト宗教の集会にビデオメッセージを送るなんてこれは旧統一協会以外ありえないし、また山上容疑者が、直接団体と関係があるわけではない元首相の安倍を殺すなんていうことを決意することもあるはずがない。たとえば創価学会に、なんらかのことで非常に恨みを持った人物が、名誉会長の池田大作や現会長の原田稔、創価学会をバックとする公明党の党首(代表)を殺そうというのら、話としてはわからないではありませんが、さすがにカルト宗教と深い関係にある政治家を殺害するなんていう思考が起きるなんてのは、自民党と旧統一協会との特殊な関係がある故です。
旧統一協会は、もともと反共というのを大きなセールスポイントとして自民党などに食いこんできたわけですが、冷戦終結などで、「反共」ではやっていくことが難しくなると、これは前からそういうことをしていたわけですが、選挙での協力(参議院選挙の比例代表なら、1候補くらいなら旧統一協会の力で当選可能)、その中には、選挙スタッフによる参加、あるいは選挙以外でも秘書になるとかで、いろいろ自民党との癒着を続けてきたわけです。そういった活動は功を奏しました。たとえば何かと話題になった、参議院選挙への立候補を決意した生稲晃子を、萩生田光一が、彼の地元である八王子の旧統一協会の教団施設にいっしょに訪問したなどというお粗末きわまりない事態にもつながったわけです。さすがに日本以外は、韓国も米国も、ここまで政権与党と旧統一協会がくっついているなどということはない。
それでですよ、桐生教授は、そういった(彼自身の言葉をいただければ)閉塞した現状についてどう考えていたんですかね?
自分は犯罪心理学専攻の学者だから、旧統一協会の犯罪などとは関係ないとでもおっしゃいますかね。彼は大学教員だから、おそらく一般人よりは、旧統一協会の問題には関心があったのかもしれませんが、でもたぶんですが、直接的にこの問題についての行動はしていなかったんじゃないんですかね。おそらく彼も、旧統一協会が自民党その他と不当につながっていて、一般の日本人信者その他の財産をむしりとっていたなんてこととは見てみぬふりをしていたのではないか。いや失礼、彼がそれ相応に行動していたのなら、以上たいへん失礼な発言だったかもしれません。でもたぶんそうでない可能性のほうがずっと高いでしょう。
そしてそれは遺憾ながら私もご同様。私は、旧統一協会の犯罪その他についてはいろいろ本も読んでいるし、それ相応の知識もあります。そしてもちろん私は旧統一協会については批判的です。しかし連中の犯罪についてこれといった行動をしていたわけではありません。
そして山上容疑者が安倍を撃ったことで、事態が動いたというのもなんともすさまじい話です。そうでもなければ、たぶん今日も自民党をはじめとする政治家たちと旧統一協会との愚劣な関係は続いているはず。けっきょく他は、この件についてあまりに無力だったし、被害者対策に奔走した弁護士たち、共産党ほかの一部政治家、一部宗教家らをのぞけば、みな見てみぬふりをし、マスコミすらなかなか取り上げることもなかったわけです。
それで、これといってこの件で動きもせず、つまりは観てみぬふりに終始した可能性が高い人物が、
>犯罪行為と事件後に見えてきた背景を切り分け、社会に対する不信感や不満と容疑者の動機への同情心は意識して区別するべきだ。
なんて「正論」をほざいたところで、山上容疑者(被告)からすれば、「あんたなんかからそんなこと言われたくない」というものでしかないでしょうね。山上容疑者が受けたひどい目は、まさにちょっとやそっとのものではない。そしてそれは、それこそ国から地方議会にいたるまでの政治家、あるいは警察をはじめとする行政もなど、本来なら山上容疑者を救い、旧統一協会へ厳しい掲示・行政処分を課さねばならないところが、不作為、そうでなくても見てみぬふりをし続けた。そしてそれは、桐生教授や私のような一般人もご同様。お恥ずかしながら私も、旧統一協会の問題などは、過去のことだったし、現在進行形でそれが問題となっているということは、私も十分に認識していませんでした。つまりは、私も、もちろん安倍晋三や萩生田ほどではないとしても、多少なりともそのお仲間です。つまりは、日本中こぞって山上容疑者たちを見捨てていたわけです。そして、見捨てられた立場の人たちが、力の復讐をした。それは非合法な手段ですが、遺憾ながら旧統一協会のめちゃくちゃな非合法行為を超法規的に大目に見てきた社会が日本です。それらは、政権交代などがあっても払しょくされなかった。そして自民党を中心とする政治家たちは、自分たちの選挙を有利に運ぶというような自分たちの都合で旧統一協会を利用し、そしてそれ相応の便宜を図ったわけです。あえて言ってしまえば、遺憾ながら山上容疑者の犯罪より、旧統一協会の犯罪を大目に見たり超法規的にみてみぬふりをしてきた犯罪の方が本質的にははるかに悪質ですよね。ものごとの因果関係を考えれば、旧統一協会を治外法権的に扱っていなければ、このような犯罪は生じなかった。山上容疑者も、あそこまで追い込まれることはなかったはず。そして自民党でも幹部である人物が、次なる選挙に出馬する新人のためにあいさつにおもむいているのだから、お話にもなりません。
残念ながら世の中、「正論」をぶつけてもなんら物事の解決にならないことはたくさんあります。どうも旧統一協会の関係における桐生教授のご意見も、その典型だったように私には思えます。