何かと話題の関係の記事です。
>中国で61年ぶり人口減少 前年比85万人減、急速に進む少子高齢化
北京=西山明宏2023年1月17日 17時54分
中国の2022年末時点の総人口は14億1175万人で、21年末から85万人減ったことが明らかになった。人口減は1961年以来、61年ぶり。世界最多の人口を抱える中国だが、少子高齢化とともに人口減少社会に入ったとみられる。今年にもインドに抜かれるとの予測も出ている。
中国国家統計局が17日、発表した。人口減の最大の要因は急速な少子化だ。22年の出生数は前年から1割減の956万人となり、1949年の建国以来最少を2年連続で更新した。高齢化も進み、65歳以上は2億978万人と過去最多となり、人口比で約15%に上昇した。21年には高齢社会の基準となる14%にすでに到達している。
一方、経済成長に影響する働き手の割合をみると、22年の16~59歳の総人口に占める比率は62%で前年比0・5ポイント減った。中国は原則、定年年齢が男性60歳、女性50歳(幹部職は55歳)と定められている。
中国は建国以来、これまで人口が減ったのは60年と61年の2度だけ。いずれも毛沢東が鉄鋼や穀物の増産計画を打ち出した「大躍進」政策後、飢饉(ききん)が発生し、多数の餓死者を出したためだった。
その後は出生数が急速に増加。中国政府は人口爆発を抑えようと、79年から夫婦が産める子どもを原則1人に制限する「一人っ子政策」を導入した。その後、少子高齢化が進むようになると、16年からは2人目、21年から3人目を解禁した。ただ、出生数の減少は止まっていない。
(以下有料部分です)
inti-solさんも人口問題について興味をお持ちなので、記事を発表しています。
私が読者の皆様にぜひ知っておいていただきたいところを引用しますと、
>コロナの影響や育児に要する費用の問題で女性が子どもを生まない傾向はあります。ただ、後述しますが、過去の出生数の増減から、経済情勢や社会情勢に関わらず、この時期に出生数が減ることはある程度事前予測可能ではありました。
>さて、先にここ数年の中国の出生減は事前予測可能だったと書きました。これは、出生数の推移グラフを見ると一目瞭然です。
下にグラフを引用しました。
>中国は第二次大戦後、急激な出生数の減少が4回起こっています。一度目は引用記事にあるように、1950年代末から60年代初頭、大躍進政策の失敗によるものです。二度目は70年代、文革の混乱が原因でしょう。ただし、文革最盛期ではなく末期、さらに文革終了後に出生が減っているのは、文革の影響に加えて、上記の大躍進の出生減世代が親になる年代になったことも影響していることを示唆しています。
最初の出生減も、統計が1949年以降しかないため推測ですが、大躍進政策失敗に加えて、第二次世界大戦で親世代の人口が減ったことも一因でしょう。日本でも、第一次・第二次ベビーブームの間に、太平洋戦争中生まれの世代が親になる時期に、やはり出生数が減っています(ここまで極端ではないですが)。
ここまでは政治経済の混乱に要因が求められますが、三度目、90年代初頭から2000年頃にかけての出生減は、経済的に中国が急成長を始めた時期に起こっています。これは、経済発展が出生減に結びついたことに加えて、上記文革後の出生減世代が親になる時期が来たからでしょう。
そして今回が4回目の急減の波です。今回の出生減も、3回目の出生減の波が親になる年代となったことが要因の一つと考えられます。そのことは事前に予想できたので、三回目の出生減の波世代が20代前半から10代半ばに達した2016年に、一人っ子政策をやめたわけですが、子育ての費用やコロナの影響で、「親世代の減少」という予測された要因を越えて出生減が進んだ、というところではないでしょうか。
長い引用で恐縮ですが、今後中国の出生数が劇的に高くなるというのはなかなか考えにくい。そしてこれは、中国の周辺である儒教文化圏の国々でも共通しているところです。
日本では、合計特殊出生率では、1974年まで2以上の数値でしたが(ただし、人口置換水準(TFR=2.1)をこの時点で下回った)それ以降2以上を回復せず、日本の人口も2008年で減少トレンドとなっています。詳細は、こちらの記事を参照してください。つまり、だいたい34年くらいで、人口が減るようになったということです。
それで、日本のお隣の大韓民国(韓国)の状況を見てみましょう。Wikipedia「大韓民国の少子化」から。表などについては、Wikipediaをご覧いただくとして、韓国では、上にある人口置換水準を1983年に下回りました。同じくWikipedia「大韓民国の人口統計」によると、2018年に1を切り(つまり平均すれば、女性が一生に産む子どもの数が、1人未満ということです)、2021年には0.81です。この年ついに人口が減少に転じました。さすがにこの出生率の低さは尋常でない。
さらに中華民国(台湾)はどうか。Wikipedia「中華民国の人口統計」より見てみますと、1984年に合計特殊出生率が2.1を下回り、2010年に1を切っています。その翌年には1を上回りましたが、2020年に1を下回っています。同じ2020年に人口が減少となりました。
いわゆる独立国家ではありませんが、香港の合計特殊出生率につきましては、私がいつも勉強させていただいている「世界経済のネタ帳」さんの「香港の合計特殊出生率の推移」によると、1980年の段階では、2.05とまあまあ高い水準でしたが、2001年に1を切り、その後1を超えたものの、2020年に0.87という低水準となりました。同じく「世界経済のネタ帳」「マカオの合計特殊出生率の推移」を見ますと、マカオは2000年(中国復帰の翌年です)に1を切っています。その後しばらくその状況が続き、2008年に1を回復、2020年では1.24です。世界でも、ある程度の規模のある国(あるいはそれに準じる規模のもの)の中では、この時の1切りが、歴史上初ではないか。
東アジアでないですが、中国の影響が非常に強い国と思われるシンガポールはどうか。「世界経済のネタ帳」「シンガポールの合計特殊出生率の推移」によると、2020年時点で1.10です。香港やシンガポールは移民国家(香港も便宜上「国家」とします)ですので、人口自体は増えていますが(ただしシンガポールも香港も、2020年ごろから人口増加は停滞もしくは減少気味。詳細は、「世界経済のネタ帳」さんの、シンガポールのグラフと香港のグラフ参照)、合計特殊出生率の低下は今後も防ぎようもないかと思います。
2020年における世界の合計特殊出生率ランキングによると、全187か国(香港・マカオなどもふくむ)中下位3番が、シンガポール→香港→韓国の順です。台湾は収録されていないので、もし入っていたら、シンガポールと香港の間になるかと思います。日本やマカオは、これらよりは高いですが、それでも日本174位、マカオ179位です。この表を見ますと、東アジアと東欧、南欧が下位で固まっています。日本は、人口置換水準を下回ったのが1974年で、34年後の2008年から本格的な人口減少トレンドに入りました。韓国は1983年→2021年、台湾は1984年→2020年です。日本はタイムラグが34年、韓国が38年、台湾が36年です。この3国は、移民国家でないという共通点があります。合計特殊出生率は、韓国と台湾が10年遅れくらい、人口減少トレンドになったのが、12~13年後といったところか。
あ、すみません。本家本元の中国(中華人民共和国)について書かないと。「世界経済のネタ帳」「中国の合計特殊出生率の推移」によると、1992年に合計特殊出生率が2を切り、2022年に人口減少になったわけです。30年というわけで、スパンとしては日本その他の国より短いですね。
移民の数の多さ、平均寿命の長さほかに、また中国の人口統計が信用できるかという問題もありますが、東アジアでは、合計特殊出生率が、人口置換水準を下回ってから30年+αで人口減少トレンドに入るということなのかもですね。
ところで朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)はどんなもんでっしゃろと思いますと、「世界経済のネタ帳」「北朝鮮の合計特殊出生率の推移」によると、1996年に2.1を切っていますが、現段階(2020年)1.89とわりと高い水準です。北朝鮮の人口統計が信用できるのかという気がしますが、Wikipedia「朝鮮民主主義人民共和国の人口統計」によると、どうもまともな統計が取られていないし、また実態もいろいろわからないところがあるようですので、詳細については、Wikipediaなどを参照してください。「世界経済のネタ帳」さんでも、まともな総人口の統計がないので、グラフは掲載されていません。いずれにせよ餓死者などが多いので、ちょっとこの少子化→人口減少の話とはそぐわない部分が多い。なお、上にリンクした北朝鮮の人口統計のWikipedia項目の注釈によると、
>人口が三倍に膨れ上がったあとにピークアウトを迎える国には、2010年代の日本、2030年代の中国、2020年代の韓国が挙げられるため、北朝鮮もその例外ではなく、建国時の朝鮮北部に700万強の人口が備わっていたことがうかがえる。
とありますので、このあたり「なるほどなあ」です。ただし中国は、2030年代をだいぶ前にしてピークアウトしたということですが。
北朝鮮は議論の対象にならないとして、中国系の国々とその影響の強い国、日本や韓国など、儒教の影響が強いと思われる国々がそろって合計特殊出生率が低いというのは注目に値します。敗戦以来議会制民主主義国家である日本、まだ軍事政権だったり国民党による強権国家だった韓国と台湾、民主主義国家だが強権的な部分が強いシンガポール、ある意味長きにわたって自由放任、現在でも特異な統治機構である香港、さらには現強権国家である中国が、どこもそろって子どもを産まない国々(地域)であるのは、非常に興味深いですね。つまりは、北朝鮮はどうだか不明の部分が多いですが、政治体制にかかわらず、ある程度の豊かさを得た社会が子どもを産まなくなる社会になるのはどこも同じですが、東アジア文化圏の国々はそれがかなり強いということなのでしょう。inti-solさんは、私にかえしてくださったコメント返しで、
>それぞれに事情は多少異なるとは思いますが、経済発展に合わせた子育てしやすい社会、というのかせうまく作れていない、ということになるんでしょうかね。
とお書きになっています。結婚や子育てに対する考え方、学校制度ほかいろいろな側面があろうかと思いますが、歴史や政治体制などがいろいろ異なる国々でこのような変なところが共通するというのは、やはり儒教文化圏という大きな枠組みに共通するところなのだなと思います。そうかんがえてみると、昨今話題になった「異次元の少子化対策」というのも、だいたいみなそう予想していると思いますが、これといった効果は望み薄なんでしょうね。政府の努力不足とかやる気のなさということ以前の話としてそうなるのではないか。同じく少子化の問題が強い東欧や南欧なども、東アジアと似たような問題を抱えているのでしょう。
それで私の思うに、なんとなく、合計特殊出生率の低下というのは、人間があまりに個体が多くなりすぎることを防ぐ神のプログラムのような気すらします。いや、別に私は「神」なんてものを信じているわけでもありませんが、けっきょくそういうことになるのではないか。「豊かな社会(生活)」というものと「子どもをたくさん産み育てる」というのは、人間にとってまったく相容れないものであり、そのあたりを調整するのは、人間にとってできない相談というものなのでしょう。
この記事は、inti-solさんの記事からヒントを得ました。またそれに投稿したコメントを一部記事でも使っています。感謝を申し上げます。