このブログでも過去記事
けっきょくこれらの本を読めば、本多勝一氏の東洋医学の本など根本から崩壊してしまう(高橋晄正氏の著書)などで紹介した本多勝一著『はるかなる東洋医学へ』を読んでいると、解釈の違いなんていうレベルでなく、なんの論拠もなく事実関係もきわめて怪しいような話が続出します。そうとう好意的に読んでも、これはひどいというような話が頻出する。たとえばこちらの文章はどうか。
>恐るべきことだが,妊娠中や出産の仕方を始め,毎日の食物や日用品や生活習慣・移動手段(交通)にいたるまでほとんどすべてが反自然的なもので充満しているではないか(文庫版p.127。以下文庫のページ数で対応)
そういう話は悪いけど、「人間に有用な反自然もあるし、そうでないものもある」という以上の話じゃありませんよね。たとえば
>妊娠中や出産の仕方を始め
とありますが、不妊治療が必要な場合もあるし、安定させるために薬物投与などを必要とすることもある。母体と胎児の保護のため、帝王切開などを緊急の措置としてすることもあります。
で、これって
>恐るべきこと
なんですかね? まさか本多氏だって、反自然のことをするくらいなら、母子が死んだり重大な後遺症が残ったりしても仕方ないとまではいわないと思いますけどね。
これは私の想像なので、違うといわれればそれまでですが、たぶん本多氏は、(不要な)分娩促進剤の投与とかそういうことを言っているのではないかと思います。それだって必要な場合、有用な場合もあるわけで、別に医者や母親、家族の医学的以外の都合でばかりで投与されているというものでもないでしょう。いずれにせよこのようなことは、そんなおおざっぱな一般論で論じられるようなものではないでしょう。
他にも食物だって、穀物も野菜も肉も、品種改良や家畜化などでたくさん食えるようになったわけで、本多氏の論理を拡張したら、野草やジビエ、天然の魚ばかりで食事をするようなことにならないか。まさに本多氏のいう「古代人」(後でふれます)の生活になりかねない。食糧危機にもなりかねません。移動手段だって、まさかこの期に及んで馬や籠などの家畜や人力にばかり頼るわけにもいかんでしょう(苦笑)。
で、なんでこんな珍妙な話が出てくるかというと、たぶんこれ本多氏自身がお考えになったものではありませんね。おそらく私がS氏(≒境(信一)氏)(故人)と表記する東洋医学関係者らからの入れ知恵ではないか。こういってはなんですが、こんな珍妙な話は、素人が持ち出せるようなものではない。
それで、本多氏の書いていることを読むと、あ、これS氏(≒境氏)から吹き込まれたものだなと思えるものが頻出します。たとえばこれは、S氏(≒境氏)が語ったものであると明言されているもの。つまり本多氏が、S氏(≒境氏)に、最初に治療(?)を受けたときの話。以下S氏(≒境氏)の治療(?)を受けるまでの経緯は、私の責任で要約してご紹介。
つまり本多氏が、心臓の異常を感じて当時勤務していた朝日新聞社の診療所へ行きます。心電図を取ったが、医者の返事は大要不整脈だが心配することもないというもの。本多氏は、他の3人の医者に心電図を見せるが、回答は同じようなものでした。それでも納得しない本多氏は、「T堂」のS氏(≒境氏。本多氏は、「S先生」と表記。本多氏の奥さんの紹介らしい)のところへ行くと、S氏(≒境氏)の答えを引用しますと
>この心臓は決して心配するほどのことではないという。要するに、これはからだ全体の中における諸問題が、単に心臓という部分に対して警戒警報の信号を送ってきた「結果」であって、原因は心臓と関係ないというのである。(文庫版p.46~47 青字の部分は原文傍点)
それでその続きで、
>実に喜ばしいことに、わずか二回の治療によって、この不整脈は消えてしまった。しかしS先生は言う。―「これは私の力というよりも、患者たる本多さんの方によるところが大きいのです」
どういうことかというと、「信州の山ザル」たる私の身体はあまり「文明」に毒されていない。一種古代人に近い状態にあるので、東洋医学の側からすれば大変扱いやすく、単純だから効果も表れやすい、と。(文庫版p.47 段落は、スペースにて対応。段落の1字下げは省略)
だそうです。こんな話読むのもばかばかしいというレベルじゃないですか。
①複数の医者が、問題はないという趣旨のことを述べている。したがって本多氏の不整脈が消えた理由は、単なる時間の経過である可能性がある(というか、私はその可能性が高いと考えています。下の記述も参照してください)。また高橋晄正氏は、前記事でも引用したように、
>それ(引用者注:治療)が良かったのだということの証拠として、その病人が軽快したとか全快としたとかいうことがあげられることがある。しかし、それも正しい考え方であるというわけにはいかない。病気になった人間は、治療をしなかったらぜったいに治らないというわけではないからである。それが、壊れたラジオと病気の人間との違いである。壊れたラジオは修理しないと直るということはないが、病気の人間には、病気に打ち勝ってひとりで直っていく力がある。それを生体工学の研究者たちは、生体の「自動制御のしくみ」と呼んでいる。
もちろん、生体の自然回復力には限界があって、ガンのような病気にたいしては、それはあまり強力に発揮されない。しかし、肺炎や腸チフスのような細菌の感染によって起きる病気では、白血球の食菌作用の増加と免疫抗体の産生とかいうその自然回復力のしくみが、かなりよくわかってきている。内科的治療というのは、そうした自然回復の仕組みを前提として、それを助長するものとして考えるべきものである。(漢方の認識 p.237 )
>人間がいろいろな病気になったときに発揮できる自然回復の力には、その人間がおかれている環境条件や生まれつきの個体差によって、いちじるしくバラツキが見れ荒れる。そのために、特定の個人について事前にそれを評価するということは望めそうにもない。このようなバラツキのある個体の集まりが対象であるとき、ある治療Bが病気Aの経過に有効に作用するかどうかは個々の個体を場としてではなく、集団を場として統計的解析によって評価するよりほかに方法がない。それを効率よくおこなうためには、このような臨床的治効試験に内在する三つの要件をはっきりと見きわめ、それにたいする対策を正しくおこなわなければならない(図41)。(前掲書p.237~238)
と指摘しています。
②
>からだ全体の中における諸問題が、単に心臓という部分に対して警戒警報の信号を送ってきた「結果」であって、原因は心臓と関係ない
ということの意味がはっきり分からない。
③S氏(≒境氏)の治療内容が何も書いていない。これでは第三者の検証ができない。
④
>「文明」に毒されていない。一種古代人に近い状態にあるので、東洋医学の側からすれば大変扱いやすく、単純だから効果も表れやすい
具体的に、これはどういうことか? なにがどう他の人間と違うのか。しっかり説明してくれないと困る。
実際本の中でも、本多氏は、
>放置すればいずれはなおったかもしれない。このときには出張や睡眠不足も重なっていたから、要するに疲労もしていただろう。しばらく休養すればなおったのかもしれない。(同上)
と書いているくらいです。それなら本多氏の症状の軽快理由が、S氏(≒境氏)の治療のゆえであるかどうかもわからないじゃないですか。おまけに③で指摘したように、受けた治療の内容すら何ひとつ書かれていない。これはどういうことなんですかね? S氏(≒境氏)が、(企業秘密だから?)書かないでくれと頼んだかそういうことではないのかもしれませんが、ここで本多氏が書いていることは、その内容はきわめて重大なことであり、具体的なことを書かなかったりしていいものではないでしょう。本多氏は、
>S先生は治療をしながら実にくわしく説明する。(文庫版p.46)
と書いています。だったらそれをちゃんと読者にも開示しろです。本多氏は、ここまでS氏(≒境氏)を称賛し、ほめたたえているのだから、それくらいのことをする程度の義務はあるでしょう。本当にS氏は、まともな説明をしたのか。それは読者が読んで納得できるようなものなのか。どちらもきわめて怪しいといわれても仕方ないのではないか。
それでこんなあいまいな文章を書いて、S氏(≒境氏)はすごいと称賛する本多氏も、ひどい人間だよね。これ最悪医療詐欺や医療事故になりかねませんよ。そういう重大な問題について、本多氏はきっちり認識をしているのか。
もしかしたらですが、S氏(≒境氏)がいったという
>「文明」に毒されていない。一種古代人に近い状態
というのは、抗生物質をあまり使用していないとかそういうことなんですかね? 仮にそうだとして、抗生物質の不使用とかいうのが、S氏(≒境氏)の治療の効果にどれくらい作用するかというのは、もし本当に本当なら、きわめて興味深い問題でしょうが、でもそういったことは、何も検証されていないのでしょうね、たぶん。
それで、本多氏の書いていることを読んでいて、本多氏がおそらく気にいった(bogus-simotukareさんのいう「心地よい」)のは、上の部分でしょうね。文明に毒されていないとか、古代人とか。本多氏が、最初にご紹介した反自然がどうしたこうしたとかいう世迷言も、つまりは、これとつながっているのでしょう。たとえば本多氏は、次のように書いています。本多氏に、初孫ができたときの話。本多氏の義理の娘さんは、S氏(≒境氏)のアドバイスをいろいろ受けた末、
>U子さん(引用者の注記:本多氏の義理の娘さん)は「珠玉(引用者の注記:原文には「たま」のふりがなあり)のような」女の子を産んだ。生まれたてから「古代人のよう」に大元気で医者を驚かせた。(文庫版p.52)
とのことです。
事実関係からして、こんな話確認できないじゃないかよというレベルの話のような気がしますが、そもそも古代人がものすごく元気だなんて、なんら事実確認できない単なるドグマじゃないですか。こういっちゃなんですが、古代人の分娩というのはきわめて危険なものであり、母親も子どもも、文字通り命がけだったはず。そういったことを本多氏は、どれくらい認識しているんですかね? そもそも古代人なんて、現在それを具体的に知っている人間なんて(当然ながら)皆無だし、だいたい古代人が現代の人間と比べて健康だということもないでしょう。昔は幼児死亡率も高かった。こちらの記事によれば、
>縄文人の平均寿命は30〜35歳だったと見られますが、多くの人が30代前半で死亡したということではないので気をつけてください。当時は生まれてまもなく亡くなる子どもが多かったために、全体としての平均寿命が低かったのです。最近の研究から、縄文人の約3割が65歳を超えるまで生きていたと報告されています。
というわけです。つまり当時は、そういう過酷な時代だったわけです。
でも本多氏からすれば、信頼するS氏(≒境氏)から、あなたの身体は古代人のようだとか言われたり、お孫さんが古代人のように元気だ、とかいう話を聞かされたら、非常に「心地よい」のでしょうね(苦笑)。こんなくだらない(はい、はっきり書きます。非常にくだらないと思います)話で本気でS氏(≒境氏)のことを気に入っちゃって傾倒しちゃうんだから、本多氏もどれだけおめでたい人間なんだか。逆にS氏(≒境氏)のような、前に書いた彼への私の論評を再掲すれば
>詐欺師やコピーライター、アジテーター、はったり屋、詭弁家としての才能はあっても、実質デタラメな野郎に過ぎない
人物からすれば、本多氏のような知名度も高く、世間でも一定の評価のある人物を味方にすれば、どれだけ自分が得するか分かったものではないというものでしょう。ほんと上で私がとりあげたS氏(≒境氏)の発言なんて、詐欺師、はったり屋といわれても仕方ない代物です。
この件は、また記事を書くかもしれませんので、興味のある方は乞うご期待。あまりに本多氏の書いていることがひどすぎて(つまりは、S氏(≒境氏)の発言がひどすぎるということです)、書くネタには困りません。