以前このブログで、ある知的障害者が起こした死刑事件についての記事を書いたことがあります。といっても、その死刑囚の死刑が確定した際に発表された毎日新聞の記事を引用されたブログさんの記事を全面的に引用した記事ですので、私自身のオリジナリティはないのですが、ただ非常によろしくないというか、知的障害者の犯罪の最悪の事例だと思ったので、ご紹介したわけです。
行政その他の支援がなかったことが非常に悪い事態をもたらした大きな要因と思われる強盗殺人事件の実例
で、ちょっと以前の発表の記事ですが、同じ毎日新聞から、この記事の補足とでも言うべき部分のある記事が発表されたので、その件の部分を中心に採録したいと思います。
>Listening:<記者の目>責任能力乏しい知的障害者=長野宏美(外信部)(魚拓)
2014年08月20日
◇死刑の再考が必要現政権下での死刑執行は9人を数える。香川県で3人を殺害したとして、6月に執行された川崎政則死刑囚(当時68歳)は、知的障害などを理由に弁護側が心神耗弱で責任能力が低いと主張していた。国際的には知的障害者は死刑の除外対象とされ、例えば1989年の国連経済社会理事会や2005年の国連人権委員会の決議で加盟国に死刑を適用しないよう求めている。
◇厳罰だけでは何も解決しないだが、日本では知的障害者の死刑に特別な指針はない。起訴前や公判段階で精神鑑定を行い、責任能力を問えるか判断することもあるが、犯行の態様などを総合的に評価する。知的障害があっても起訴され、結果の重大性から死刑になることもある。川崎死刑囚も1審で「知能の程度が低いため、行動制御能力にある程度の障害を被っていた」と認められたが、完全責任能力があるとして極刑になった。
私は知的障害者の犯罪を取材した経験から、個人の問題として厳罰を科すだけでは何も解決しないと感じている。障害に目を向けて刑の減軽理由として考慮し、死刑適用も見直すべきだと思っている。
この問題を考えるきっかけになったのは、05年に茨城県で女性2人を殺害して死刑判決を受けた藤崎宗司死刑囚(52)の事件だった。中程度の知的障害で小2以下の水準とされる。盗みなどで8度服役し、刑事責任が減軽される心神耗弱と認められたこともあった。
殺人事件の公判でも、兄と弟のどちらがいるのか聞かれ、「妹」と答えるなど、かみ合わないやりとりが続いた。弁護人に被害者の脈が動いていたか問われて「はい」と認めたのに、「勘違いでは」と誘導されると「はい」と迎合する。確定前に複数回面会したが、動機となった借金のことばかり気にして、殺人の重大性を認識しているように思えなかった。刑務所で学んだ文字で私に送ってきた手紙には、ほぼ一文ごとに「本当です」と記され、よほど人から信用されない境遇だったのかと想像した。
刑務所と社会を行き来した彼の足跡をたどり(東京本社版10年12月30日朝刊)、どこかで福祉につなげられなかったのかと悲しくなった。今も面会を続けるキリスト教のシスター(79)は「死刑確定後も変化はなく、死を正確に理解しているように見えない」と語った。
先進民主国で死刑制度があり、執行を続けるのは日本と米国だけだ。その米国では02年に知的障害者への死刑は違憲とされた。「有責性が低く応報刑罰に値せず、犯罪抑止にもならない」し、「立証能力が劣り、誤判のリスクもある」という見解だった。
(後略)
「後略」の部分も興味深いので、よろしければぜひお読みになってください。
さて、この事件の地裁・高裁の判決文というのは私は読んでいないのですが(最高裁のはこちら)、こちらによると地裁の段階で、次のような判決になったようですね。
>また窃盗事件を繰り返していた藤崎被告が成人後の大半を刑務所で過ごしたことに触れ、「十分な矯正教育を受けたにもかかわらず、規範意識は著しく鈍く、犯罪性向はより深化している」と述べた。
おそらくですが、この被告人は、「十分な矯正教育」なんてものは受けていませんね。刑務所の中で文字を学んだとのことですから(前の記事より)、それが矯正教育の一環なのでしょうが、残念ながらそれは、この人物の犯罪傾向を押しとどめるものにはならなかったわけです。とても「十分」なんて言えた代物ではないでしょう。
この死刑囚の犯罪自体はまず同情の余地などないものでしょうが、しかし学校にもろくに通えず刑務所を行ったり来たりしていたこの人物に行政がもう少しまともに対応していれば、少なくともここまでひどい犯罪は起きなかったと思います。被害者2人も、そしてまだ執行されていないこの死刑囚も、このような形で死ぬはめにはならないですんだことでしょう。
おまけに裁判も、米国最高裁から
>有責性が低く応報刑罰に値せず、犯罪抑止にもならない
>立証能力が劣り、誤判のリスクもある
とまで評されるものです。件の死刑囚も
>死刑には「がっかり。借金返せなくなるから」と答えた。
>今も面会を続けるキリスト教のシスター(79)は「死刑確定後も変化はなく、死を正確に理解しているように見えない」と語った。
という状況です。少なくともこの死刑囚に関しては、
>知能程度の低さや成育歴を過度には評価できない
という裁判所の判断よりも、
>有責性が低く応報刑罰に値せず、犯罪抑止にもならない
という考えの方が妥当性があるように私には感じました。
死刑関係というわけで書き加えますと、こちらによると
>【判明情報】9/28 ※死刑、無期懲役関連
最高裁第一小法廷(山浦善樹裁判長)は、一・二審死刑判決を受けた奥本章寛被告の上告審判決を10月16日に言い渡すと決めた。とのこと。この事件については、私も2回(こちら、こちら)記事を書きました。過日行われた最終弁論の際は、この記事へたくさんのアクセスをいただきました。たぶんこの判決の日にも、多くのアクセスをもらうと思います。
なお、上の写真は、毎日新聞記者に送られた死刑囚からの手紙と自画像です。