過日、荒木和博のブログで、次のような記事がありました。
>【調査会NEWS1773】(27.1.30)
1月28日に開催された特定失踪者問題調査会理事会において、今後の活動について次のように決定しました。
1、交渉による「解決」ではなく力による「救出」を
昨年後半の「再調査」に関わる交渉は失敗であり、今後継続しても成果が得られる可能性はほとんどない。交渉するにしても必要なことは力の裏付けである。その意味で以下のことを求めていく。
(1)自衛隊による救出の具体化
(2)7月に解除した制裁の再発動
(3)日本国内にいる工作員の摘発
(4)朝鮮総聯本部ビルから朝鮮総聯を退去させること
以上について、拉致問題全体の説明と含めパンフレットを作成する。
反北朝鮮団体の主張なら「勝手に言ってろ」と思うだけですが、「特定失踪者問題調査会」の活動としてはきわめて奇妙な決定です(「特定失踪者問題調査会」は、少なくとも会の趣旨としては、反北朝鮮を目的としている団体ではないでしょう。限りなくそうだとはいえても)。
>自衛隊による救出の具体化
自衛隊の出動による救出なんかできっこないじゃんという話は繰り返ししましたが、日本政府が認める拉致被害者すらそんなことできっこないのに、特定失踪者なんてなおさらできっこないじゃないですか。なにを馬鹿なことを主張しているんでしょうか。居場所もわからないし、そもそも特定失踪者なんて日本政府ですら認めるに至っていないのだから、空想次元でばかげています。こういう話を堂々と主張する連中もそれを黙って拝聴している連中も頭がいかれていますね。
>7月に解除した制裁の再発動
だから経済制裁をいくらしたって事実上意味がないと政府が判断したからやめたわけでしょう。それで再発動するのなら、たとえば中国やロシアの経済援助を阻止するとかを考えなければいけませんが、そんなことできっこないとしか言いようがないでしょう。事実今までできなかったんですから、日本政府がその件について中国とロシアにどうこうできるわけがない。それともなんですか、「特性失踪者問題調査会」は、なにか中国とロシアの北朝鮮支援を阻止する奥の手でもあるんですか?
>日本国内にいる工作員の摘発
摘発できるのならとっくにしているでしょう。しないのは、もはや摘発に値する工作員などいないか、さもなければ証拠がないかのどちらかでしょう。といいますか、逮捕したところで「特定失踪者」の発見などに何らかの寄与があるとも思えません。
で、次が一番私が興味のあるところです。
>朝鮮総聯本部ビルから朝鮮総聯を退去させること
特定失踪者問題と全然関係ないじゃないですか(笑、いや、笑っている場合じゃないか)。総連(総聯)が退去したとして、それって特定失踪者が仮に北朝鮮にいるとして、なんかその人たちの救出に役立つんですかね? 単なる総連への嫌がらせのたぐいでしょう。反北朝鮮活動なら、(ばかばかしいとは思いますが)そういう主張もありかもしれませんが、特定失踪者の話とはこれってなんの関係もないでしょう。ていいますか、総連とは日本政府もそれなりに仲良くしておいた方が拉致問題その他の問題の解決もむしろやりやすいでしょう。北朝鮮とのパイプの問題もあるし。
つまりは特定失踪者問題とは、反北朝鮮運動の一環として行っているものであり、実のところ特定失踪者の消息なんてどうでもいいということですね。語るに落ちるとはこのことです、なんてことは、私もこのブログでさんざん主張しましたが、ここまでくるともちろんそんな語るに落ちるなんてことじゃなくて、もうそんな建前などどうでもいいという認識に荒木らは立っているということでしょうね。いわゆる「特定失踪者」として名前を連ねられている方々の関係者は、荒木らの話を本気で信じているというより、一縷の望み、宝くじにでも当たれば・・・というくらいのことで関係しているという人がほとんどだとは思います。私もそういった人たちの気持ちを理解しないわけではありませんが、これはあまりにひどすぎませんかね。私のこの記事を、「特定失踪者」の関係者の方々が読んでいただけるかどうかはわかりませんが、朝鮮総連が総連のビルから退去するという話は、特定失踪者問題の解決に、なんらかに寄与するとお考えですかねえ、関係者の方。悪い冗談にしか私には思えません。
さて、その朝鮮総連本部売却問題で、賃貸という形で朝鮮総連が今後も入居という形になるようです。元国会議員の方の仲介があったとのことですね。私個人は上にも書いたように、朝鮮総連なんかと深刻に対立したところで、こと対北朝鮮問題で利することなどないと思いますので、こうなったことはとりあえず良かったと思いますが、しかしそう考えない人たちもいます。良かったと思うか悪いと思うかは意見の違いだから仕方ないとして、これは民事手続きの一環ですから、それ自体は善意の第三者が批判しても仕方ないことです。 それで新聞の社説を見てみましょう。産経新聞の社説(魚拓)を。
>2015.1.30 05:04更新
【主張】
総連ビル転売 明確な経緯説明求めたい
懸念していたことが起きた。都心の一等地にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルが、競売で落札した不動産業者から別の業者に転売され、朝鮮総連が賃借で入居を続ける見通しとなった。
(中略)
競売は1回目の入札で落札した宗教法人が資金を調達できずに断念し、2回目の入札でモンゴル企業が落札したものの、提出書類の不備で無効とされた。その結果、次点だった高松市の不動産業「マルナカホールディングス」が約22億円で落札した。
同社は「朝鮮総連の関係先に売却することはない」と明言していたが、山内俊夫元参院議員から山形県の不動産会社への転売を持ちかけられ、約44億円で転売する契約を結んだという。
山内氏は「日朝関係を考えてのこと」などと仲介理由を説明しており、総連は転売先から賃借して入居を続けるとみられる。
血税が投じられた不良債権問題で、その債務者が立ち退かずに入居し続ける事態となれば、国民の理解が得られるだろうか。民間取引だといっても、転売先業者がどこから資金を調達したのか、朝鮮総連と適正な賃貸契約が結ばれるのかなど、疑問点は多い。
日朝協議の交渉過程で、北朝鮮側はこの競売について日本政府に配慮を求めたが、菅義偉官房長官は「裁判所で手続きが行われており、司法に政治は介入できない」との見解を示していた。
この件で北朝鮮に譲歩したと受け取られてはなるまい。政府にも明確な説明を求めたい。
そもそも論として、なんで政府が産経にそんなことを説明しなければならないんだいというレベルで変てこな社説ですが、しかしですよ、仮に安倍政権がこの件で競落やその後の売却譲渡に関係しているとすれば(していると私も思います)、そしてそのような政治工作が露骨に表に出ちゃえば、正直総連より安倍を絶対支持している産経新聞や右翼のほうがよっぽどよろしくないことになりませんかね。右翼や産経新聞のことですから、よほどのことがない限り(個人的にはその「よほど」というのどのようなものなのか、ちょっと想像がつきません。安倍が現憲法遵守とかいえばさすがに見はなすのかな)安倍への支持は続けるのでしょうが、かえって整合性が取れないで困るでしょう。
もちろん産経の社説にもあるように、
>菅義偉官房長官は「裁判所で手続きが行われており、司法に政治は介入できない」との見解を示していた。
ということであり、政府がこの件でなんらかの談話を発表することもありませんが(発表したところで、上の見解と同じことを語るだけです)、この競売って、そもそも論を繰り返せば、単なる債権回収のためのものですから、つまりは競落して整理回収機構に金が入ればこの件はそれで一件落着なわけで、その後総連がその建物に継続して入居するかなんてことは、第三者の知ったことじゃありません。ていうか、一般住宅などでも、競売になった住宅を、親戚その他が競落して債務者がそのまま住み続けるなんてのはめずらしくもない話です。
「民事不介入」なんて言葉もあるくらいで、いくら悔しくったって、それは陰口をたたくとかいうのならともかく、新聞の社説にするような話じゃないでしょう。ましてや政府に見解を求めるなんて非常識にもほどがあります。だいたいこんなことを言ってはみもふたもないですが、この種のことで政府が何らかの便宜を図(ろうとす)るなんてことは別に想定外じゃないでしょう。産経新聞の人たちだって、十分予想していたんじゃないんですかね。
さて、この件では毎日新聞も社説(魚拓)を書いています。これがまたひどい。
>1990年代後半以降、相次ぎ破綻した朝銀系信用組合に巨額の公的資金が投入された。その焦げ付いた融資の多くが総連向けだったため、本部ビルが競売にかけられたのだ。
総連が実質的な痛みを伴わないまま本部ビルに居続けられるとすれば、いったい何のための競売だったのか。一連の経緯について国民への説明責任が政府にはある。国会の場でも真相を明らかにしてほしい。
そんな説明責任政府にありませんよ。これは(形式的には)民事ですから。ましてやこの件で政府が露骨に介入したなんてことを明らかにしたら、それは政権にダメージになる。また「いったい何のための競売だったのか」って、なに書いているんでしょうね、この筆者(笑)。競売によってお金を回収するために決まっているじゃないですか(呆れ)。いったいどこの馬鹿が、この競売は、朝鮮総連への懲罰、たたきつぶすために行うんだなんて公言しますか(絶句)。競売ってのは別に懲罰ではないから、総連が実質的な痛みをともなわないとしても、それは第三者が文句をつけるような話じゃないでしょう。いつから毎日新聞は、競売というのは懲罰的意味合いがあると社説で公言するようになったんですかね。どんだけ非常識なんだか。
> 拉致被害者の再調査は、今回の本部ビル売買とは全く別の問題だ。本部ビルの売買は、公正な手続きの下で粛々と行われるのが筋だ。
いや、この競落は、少なくとも法手続きは公正に進められたんじゃないんですか? もしこの競落や売買になにか法的問題あるいは不備があるという情報を入手しているのなら、毎日新聞はそれを報道すべきでしょう。
> それにしても、今回の転売には疑問が残る。民間の取引とはいえ、転売先の不動産会社の資金はどう調達されたのか。総連との賃借契約の内容が妥当なのかも気になる。
ビルの持ち主と総連だって、そんな妥当でない賃貸契約(妥当でない賃貸契約というのも、なんともすごいですが。家主が背任をしている疑いがあるとでも主張するんですかね)を結ぶほど馬鹿じゃないと思いますが、これも同じくもしそのような情報を入手しているのなら毎日新聞が報道すればいいでしょう。それから資金調達って、その調達方法を明らかにする義理などないし、それともなんか不正な手段で融資を受けたとでも主張するんですかね。これらは関係者への重大な名誉棄損じゃないんですか。関係者は毎日新聞(上の産経新聞の社説も同じようなことを書いています)に抗議したっていいんじゃないの。ふつう憶測でこういうことを社説なんかで書かないでしょう(呆れ)。
> 適切なかたちで公的資金が回収されたかどうかに最終的に結びつく問題ゆえうやむやにすべきではない。
くりかえしますが、競売というのは懲罰ではありませんから、競落されて金が納付されればそれで終わりです。今回は「適切なかたちで公的資金が回収された」のです。総連が退去するかどうかなんて無関係です。なにをこんな愚にもつかない言いがかりをつけているんだか。
それにしてもこの毎日新聞の社説を読んでいると、産経の社説とそっくりですね。お前らいつから産経新聞や巣食う会、荒木和博(ほかに、西岡力や国家基本問題研究所などでも可)なんだよという気がします。毎日新聞も、ほかの問題じゃさすがにこんなひどい社説はめったにのせないと思いますけどね。
ひところほどではなくなったと思いますが、やはり北朝鮮や拉致というのは、言論無法地帯、言論治外法権だと思います。ろくでもないことです。
なお、今回の記事は、bogus-simotukareさんの記事やはてなブックマークからヒントを得ました。感謝を申し上げます。