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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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同じ、数学についての「対話体」の本でも、時代の変化を感じる

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「書評」のタグにしましたが、今回は、本についての記事くらいのものであることをご了解ください。

読者の方の中にもお読みの方がいるかもですが、香港へ、私は次の本をもって行きました。

数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて

微分というと、数学の勉強のひとつのヤマではないかと思いますが、この本は微分の初歩の概念(積分については言及はありません。たぶん続編で扱われるのでしょう)をわかりやすく説明しています。わりと面白く読めました。

「数学ガール」というシリーズで、著者は結城浩という本業はプログラマ(といっても、最近はこのシリーズを執筆することに相当なエネルギーを費やしているのだろうと思います)の方が執筆していて、これには2系統のシリーズがあって、わりとレベルの高い「数学ガール」(フェルマーの定理や、ゲーデルの不確実性定理なども扱っています)と、やさしい(中学~高校くらい)「数学ガールの秘密ノート」シリーズがあります。今日は、「秘密ノート」シリーズについての記事です。

「秘密ノート」シリーズは、対話体の本です。数学好きの高校生2年生である「僕」が、後輩の女子高校生(だから1年生)、近所に住む従妹(中学生)と対話をしながら、数学を教えます(と書いていいか微妙なところもありますが、基本的には教えています)。そこに、同級生の数学に強い女の子も絡みます(原則、後輩の女の子との対話時に登場します)。

さて、この本が出ているのと同じ出版社(SBクリエイティブ)から、これはプロで高名な数学者である遠山啓(「ひらく」と読む。故人)著の1960年代後半に出版された本があらためて発売されています。

基礎からわかる数学入門 数の発展から微分積分まで

イラストは現代的ですが、元の本は半世紀弱前の出版です。

たぶん、というか間違いなくでしょうけどこの本がわざわざ出版社を違えて復刊した背景には、確実にこの「数学ガールズ」の影響があるでしょうね。それだけ先進的な本ということでしょうか。

まったくどうでもいい話ですけど、イラストの女の子、私が好きなタイプです(笑)。昔から、すらっとした女の子は好みです。なに、小っちゃくてわかりにくいって? こちらをどうぞ。

そんな話はともかく、この本も、対話体の本です。つまり、先生役の大人が、2人の高校生(理一くんと文子さん、理科系と文系、って意味ですかね?)に数学の話をするというものです。それは、表紙からもうかがえます。

遠山さんの本は、数学全体について解説した本で(同じ対話体の本でも、他では、細かいテーマに特化した本もあります。こちらなど)、結城さんの本はテーマを絞った本という違いはありますが、どちらも面白い本です。高校以降数学に挫折とまでは言わずとも苦手になったなと思われる方は、このような本を読んでみると面白いかもしれません。正直、「え、こんなことだったの?」「なんだ、簡単じゃん」とお考えになるかもしれませんよ。

それで今日私が書きたいのはそのようなことではなく、この2冊の本の違いについてです。数学だから、書いてある内容に変化があるわけではない。もちろん数学自体はどんどん進歩していますが、高校生が学ぶ数学の内容はそんなに違わない。しかし、半世紀弱前の本は指導者というか先生役の人が講義を垂れるという構成なのに対し、最近の本は、従妹と後輩に、教える立場ではありながらもその過程で自分でもさらに数学についての理解を深めるというものになっています。これ、かなりの変化ですよね。

どっちの本がいいとか悪いとかというのではなくて、遠山さんがこの本を執筆した時代は、やはり結城本のような構成にするという発想はなかった、あるいは実際に書くにいたらなかったということでしょう。たぶん遠山さんの頭の中には、高校生を教える立場にするということは念頭になかったんじゃないんですかね。私の勝手な憶測ですけど。

逆に、結城本の時代では、先生を大人(あるいは大学生あたり)にするということも可能だし、高校生の設定にしてもいいわけです。それで著者は、高校生を教師役の設定にしたというわけで、これは斬新でもあるし、またそれが可能な時代になったということです。

啓蒙書としてはどちらもとてもよくできているし、読んでいて面白いのですが、随所にやはり結城本のほうに「現代的(?)」な感覚を感じます。そもそも論として、プロの数学者(最先端の数学者としてよりも、数学教育や数学普及のほうに功績があるのかもしれません)である遠山啓でなく、数学については素人である結城浩が1冊でなくシリーズものの数学の解説書を出版して話題になるというのもまさに時代ですよね。もちろんこれは、結城本が面白いからですが、しかしかつてと比べて数学者でない人が数学の本を書くということへの抵抗が少なくなってきたということもあるのでしょう。

いずれにせよ、教科書としての数学の本ばかりでなく、こういった読者に読んでもらうためにいろいろ工夫を凝らす本を読むのもいろいろ勉強になるというものです。私も、これからもいろいろ数学の勉強をして行きたいと思います。


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