bogus-simotukareさんの記事で面白いものがありました。すなわち、共産党系の出版社である新日本出版社から発売されている雑誌『経済』の9月号に次のような論文が載ったというのです。
>沖縄・軍用地への投資を勧める本が出た 来間泰男
来間氏という人物は、沖縄国際大学の名誉教授で、沖縄史、農業経済の学者です。共産党系の雑誌に定期的に寄稿しているのですから、たぶん左派系の学者なのでしょう。私は氏の本を1冊だけ読んだことがあります。
これはかなり面白いし勉強になる本ですので、読者の皆様にもお勧めしておきます。
それでその軍用地投資指南の本というのがこちらです。
お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない! 「軍用地投資」入門
Amazonに掲載されている説明を引用しますと、
>内容紹介
富裕層に秘かに人気の軍用地投資のノウハウを、初公開!
業者の倒産も、ビジネスモデルの心配も、家賃不払いや不動産価格下落の心配もぜ〜んぶ皆無!
安定的で長期的な収益が見込める掟破りの不動産投資……それが軍用地投資です。
<信用最強の国>を相手とした借地権付きで、換金性が高く、固定資産税は低い。そしてもちろん、沖縄県外からも投資可能!
本当は誰にも教えたくない超安定型の不動産投資のノウハウを、軍用地投資の専門家が細かく解説。投資家待望の1冊です! !
出版社からのコメント
さまざまな不動産投資ノウハウを見てきた投資本担当編集者も、このノウハウには驚きました!
まさに掟破りの不動産投資法、投資に興味がある方なら必見です! !
内容(「BOOK」データベースより)
軍用地投資の基礎から実践まで完全解説!
著者について
〈著者略歴〉里中 一人(さとなか・ひとり)
防衛省職員。退職金をはたりて自宅を建て替えた父が脳出血による後遺症で寝たきりとなり、日々の生活に困窮。その上、働く貧困層にいた弟は心の病が原因で借金と家庭内暴力に走り一家離散。父や弟の姿を目の当たりにし、退職後の生活に漠然としたお金の不安を感じ、一生働くだけの人生に疑問を抱く。さらに追い打ちをかけるかのように息子の「発達障害」が判明。息子の将来のために財産を残したいとの思いから、一念発起。株式投資などを経て、ある運命的な出会いがきっかけで軍用地の存在を知る。今では、軍用地投資を中心とした資産形成法を確立し、その内部収益率は10%と高い収益性を誇る。家族と関わる時間と心に余裕が生まれ、家族に笑顔が戻る。現在、軍用地投資の知識を請われ沖縄大家塾に参画。父の退職金の運用にあたり、もっと早く軍用地投資を知っていればと悔やんだ経験を通して、本業の傍ら沖縄大家塾およびブログ上において軍用地の購入から売却まで年間100件以上の個別相談に乗るなど活動中。沖縄大家塾会員。沖縄市軍用地等地主会会員。
だそうです。
すげえ、この著者、自分が防衛省職員であることを堂々と認めちゃっています(呆れ)。
それでどうなったかというと・・・
>2018.5.25 07:19
「本当は教えたくない」軍用地投資本を無断出版 沖縄防衛局職員、近く処分
防衛省沖縄防衛局の男性事務官が、軍用地への投資を勧める書籍を無断で出版していたことが24日、政府関係者への取材で分かった。防衛省は近く、この事務官について停職を含む厳重処分とする方針だ。
関係者によると、男性事務官は4月に「お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない! 『軍用地投資』入門」(すばる舎)を出版。ペンネームは「里中一人」としており、防衛省の現役職員であることを書籍の中で明かしている。
本は、沖縄の米軍基地や自衛隊施設内の土地を購入できることを紹介した上で、投資や運用を推奨する内容。国を相手に安定的に収入が得られることから「ほぼリスクゼロなのに金利2~3%」「国が借り手で家賃滞納や下落のリスクは最小限」などと宣伝している。上司には無断で出版していた。
政府関係者によると、事務官は実際に軍用地主として資産運用しているという。沖縄防衛局が回収を指示して本人が回収を進めているが、インターネットなどで売買されている。
>軍用地への投資本無断出版で懲戒 沖縄防衛局職員を停職20日
2018年6月8日 19:00
防衛省沖縄防衛局は8日、軍用地への投資を勧める書籍を無断で出版していたとして、40代男性の防衛技官を停職20日の懲戒処分にしたと発表した。書籍は、公正な職務執行に対する国民の疑惑や不信を招くような内容だったと指摘。男性は9日付で依願退職する。
沖縄防衛局によると、男性は4月24日に「お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない! 『軍用地投資』入門」を出版。沖縄の米軍基地の土地を購入できることを紹介した上で、投資や運用を推奨する内容だった。必要な届け出をせずに、上司には無断で出版していた。(共同通信)
琉球新報の社説を。
><社説>防衛局員が投資本 基地の効果喧伝おかしい
2018年5月29日 06:01
沖縄防衛局の職員が県内の軍用地への投資を薦める単行本を出版し、自身も米軍嘉手納基地などの土地を購入して軍用地料を得ていたことが分かった。防衛省は省に無断で出版したことを問題視し、処分を検討しているという。
しかし、問題の本質は無断出版ではない。米軍基地が返還されて跡地利用が進めば、税収も雇用も増えることは、那覇新都心や北谷町の西海岸エリアなど目に見える形で現れている。にもかかわらず軍用地は「安定的で長期的な収入が見込める」とうたい、「リスクは基地返還」などとして、あたかも米軍基地が沖縄に多大な経済的なメリットを生んでいると強調している。
職員は著書で軍用地購入を「究極のローリスク・ミドルリターンの投資だ」などと紹介した。一方で基地返還をリスクとし、基地の存続に反対する一坪反戦地主会を「契約手続きで多額の税金を費やしている」と批判している。
軍用地が「金融商品」として取引が活発化したのは2008年のリーマンショック後だ。株価が大きく下落する中で、利回り2~3%ほどだが、日本政府が賃料を支払う安定性が注目された。不動産業者が土地を分割して価格を下げたことも購入者を増やした。
現実には、跡地利用が成功した場所では軍用地料よりも民間への賃料の方が高くなった。地主に利益をもたらし、雇用を生み、地域経済に貢献している。那覇新都心で返還後、直接経済効果が31倍の約1634億円、雇用が93倍の約1万5千人になったのが典型だ。
同書は軍用地が復帰後、上がり続けてきたことを挙げ「ドル箱」と称する。軍用地料の上昇は、日本政府が米軍に基地を安定して提供するために地主の不満を抑える、いわば「政治価格」だ。財源は私たちの税金である。
政府内でも軍用地料の金融商品化が議論になった。民主党政権時代の2010年、第1回事業仕分けで軍用地料の一部経費が廃止を目指す「仕分け」の対象に上げられた。委員からは基地被害と関係ない県外在住者が軍用地料を得ることへ疑問が呈された。
軍用地の賃貸借契約や管理を担う防衛局職員が基地を「金融商品」として喧伝(けんでん)する意図は何であろうか。
戦後、米軍に強制的に土地を奪われ、対価としてわずかな地料が設定された。復帰後は政府による米軍基地維持政策の一環とされた。それが金融商品と化し、さらに基地被害を受けない県外在住者の投機対象となっている現状は、基地経済の「ひずみ」の一つだ。投資目的の地主の増加が今後の返還跡地の開発に悪影響を与えることも懸念される。
職員は防衛省が買い入れた土地などの財産管理業務に携わったという。資産形成に職務で知った情報を参考にしたのであれば、国家公務員倫理規定に違反する。防衛省は厳密に調査すべきだ。
個人的には、こういう本を出版することもさることながら、自分が防衛省職員であることを堂々と著書内で認めちゃっている著者の常識のなさにも驚きます。懲戒処分の危険を考えなかったんでしょうか。もっとも出版社側が「まずいんじゃないんですか」と忠告くらいはしたほうがいいと思います。
それにしても、投資指南の本を出版して、それがたたって職場を依願退職に追い込まれるなんて、馬鹿にもほどがありますよね(呆れ)。そんなのいくらだって逃げる方法はあると思いますが、そういうところまで頭が回らなかったのでしょう。それもどうかです。
ただ軍用地が投資の対象となりうる(なっている)というのは、やはり見過ごせない話です。明らかに基地問題の1つの側面だし、日米安保の裏の面として重視していかなければなりません。
今回の記事は、bogus-simotukareさんの記事に全面的に依拠しました。感謝を申し上げます。