想定内、予想通りの話でしかありませんが、こんな記事が発表されました。
>6月大筋合意は絶望的=安倍首相、戦略練り直し-北方領土交渉
2019年02月13日17時47分
北方領土問題を含む日ロ平和条約交渉をめぐり、6月の日ロ首脳会談での大筋合意が絶望的な情勢となり、安倍晋三首相は交渉戦略の練り直しに入った。ロシア国内で北方領土返還に反対する世論が高まり、プーチン大統領が慎重に交渉を進める姿勢を鮮明にしたためだ。
プーチン氏は6月28、29両日に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて来日する予定。首相は、早ければプーチン氏来日時の首脳会談で大筋合意を宣言する青写真を描いていた。しかし、先月22日にモスクワで行った首脳会談では、日本側が目指した6月の会談日程の確定すらできず、目立った進展はなかった。
政府関係者によると、会談後、首相は周辺に「私は6月とは言っていない」と6月大筋合意にこだわらない考えを伝達。別の関係者によれば、首相周辺は与党関係者に「6月はもう無理だ」と伝えた。政府高官は「長年動かなかった交渉を数カ月でまとめるのは土台無理だ」と語った。
首脳会談の詳細は明らかになっていない。しかし、ロシアの各種世論調査では、北方領土の引き渡し反対が7割を超え、プーチン氏は会談後の共同記者発表で「今後、辛抱強さを要する作業が待っている。(合意は)両国の世論の支持を得なければならない」と語るなど、交渉の長期化を強く示唆した。
首相はこうした情勢を踏まえ、12日の衆院予算委員会で「今年と期限を切るつもりはない」と述べ、交渉が来年以降にずれ込むこともあり得るとの認識を示した。首相周辺からは「交渉が長期化した場合、次の政権にどう引き継ぐかも考えなければならない」との声も漏れている。(2019/02/13-17:47)
そもそも論として、ロシア側は一言も、「平和条約締結で、北方領土2島を返還する」なんて言っていませんからね。正直「やっぱり」「予想通り」「想定内」ということでしかありません。
が、それはともかく
>交渉戦略の練り直し
っていうのはどうかですね。そもそも日本側に、この北方領土返還の交渉にあたって、「戦略」なんてものがあったんですかね?
正直先月の安倍のロシア訪問の際の会談にしたって、日本側は、ロシアの2島返還OKが出れば平和条約を締結するというつもりであったというだけで、ロシアのOKが出なかった場合どうするかなんて、ほとんど考慮されていなかったんじゃないんですかね。そんなものは戦略の名に値しないでしょう。その時点で、たとえば追加でこれこれこういう便宜を図る用意があるとか、その場合どういう対応をとるというような準備があったのか。報道されている限りではなかったように思いますね。あったとしても先延ばし、後日の交渉という以上のものではないでしょう。
私は昨年、安倍が2島返還にかじを切った、平和条約締結を目指して、来年(今年)の参議院選挙はそれで勝つ、みたいな話が流れた時、え、ロシアとはそこまで話が進んでいるの、日本はなんかロシア側に「これだ!」というような、切り札、隠し玉のたぐいがあるのと思いました。あるいは、私がいつも指摘する北方領土返還後の在日米軍基地不設置の確約も、それなりには話が進んでいるのかなと思いました。そうでなければ返還なんかあるわけがない。ところが実際には、
こんな程度のことすらろくに対応できなけのだから、北方領土なんか返ってくるわけがない(と、昨年末の安倍の発言でさらにそう思う)の記事でご紹介したように、安倍は
>「在日米軍は日本や極東の平和と安全を守るために存在し、決してロシアに敵対的なものではない」と強調。「今までもプーチン氏に説明してきた。必ず理解いただけると思う」と述べた。
という態度なわけで、そんなあやふや、あいまいな話にロシア側がのってくるわけないだろと思います。そして現段階のってきていません。
安倍が2島返還で行くという話をしたとき、普段は安倍絶対支持の産経新聞や櫻井よしこといった人たちも難色を示していましたが、現段階そういうところまで話がいっていませんね。2島返還だって、現段階まったく見込みはなさそうです。あ、断っておきますが、私も2島返還しかないと思っています。いまさら、択捉と国後が返還される見込みはないでしょう。が、現状それ以前の状況だということです。
囲碁や将棋に「3手の読み」という言い方がありまして、つまり自分が何らかの手を打って(指して)相手がどう打つ(指す)かを予想して、そして自分の次なる手を考えるというものです。で、この北方領土に関しては、日本側は、ロシアが日本側の要求を受け入れない(即答をしない、時間稼ぎを先方はねらっているといった対応をふくむ)場合どう対応するかということで、それなりの確たる見通しのある戦略があったのか。全然なかったということじゃないですかね。自分たちの都合のいいように「話を聞いてくれる」と解釈していたり願望していただけでしょう。
これが例えば、北朝鮮の拉致問題については、日本は北朝鮮側に「国交回復」「経済援助」という切り札、必殺技、可能な限りの最高の武器で、拉致被害者帰国を勝ち取れたわけです。巣食う会とか家族会とかがさんざん主張する「北朝鮮への圧力」なんてものは、拉致被害者帰国ではまあほとんど(たぶんまったく)役に立っていないわけです。下の記事を参照してください。
米国のキューバへの対応から、日本の北朝鮮への対応を考えてみるで、対ロシアに関して、そのような切り札、あるいは 何らかの隠し玉みたいなものはありますかね。私の見たところなさそうですが。こういった交渉ごとの場合、拉致問題の時のように先方が大いに興味を持つ対価を提出できるのならまだしも、そうでなければ先方がこちらの申し出を受け入れなかった場合の対応方法を考えておかねばならんでしょうが、今回に関しては、1月の会談で合意できなければ実質元の木阿弥じゃないですかね。それなら昨年の段階で、あんな大げさな話をすべきじゃないというレベルの話でしょう。
安倍の大叔父である佐藤栄作や田中角栄の日韓国交回復や日中国交回復などは、やはり国交を回復しなければしょうがないタイミングでしたし、また韓国も中国も、その点について当然前向きでした。これは、北朝鮮の拉致問題についての北朝鮮も同じです。上の拙記事でちょっと取り上げた、米国とキューバの件もそうでしょう(現在かなり冷却していますが)。しかしロシアはそういった点について現状前向きですかね? 私は、今後北方領土が返還される可能性は低いと思いますが、いずれにせよ返還してもらうのなら、そういった状況を鑑みてもロシア側が興味を持つだけの対価が必要でしょう。そういったものを用意できるだけの何かがあるのか。そういうものが用意されていれば「戦略」でしょうが、そんなものは、報道の限りではなさそうです。これでは、いつまでたっても、北方領土なんてまともな話し合いにつけないでしょう。