最初にお断りしておくと、私は死刑反対論者、廃止論者です。ただし以下の文章は、それとは直接の関係はありません。
興味深い記事を見つけました。引用を。
>老老介護の果て家族3人殺害 被告の女に懲役18年の判決~福井地裁「同情の余地ある」
1/5(火) 19:06配信
義理の両親と夫の3人を殺害した罪に問われた敦賀市の被告の女に対する裁判員裁判は5日、福井地裁で判決公判が開かれ、懲役18年が言い渡された。
判決を受けたのは敦賀市道口の会社員・岸本政子被告(72)。岸本被告は、2019年11月、心中を図ろうと自宅で介護していた義理の両親と夫の首をタオルで絞めて殺害した。
裁判では、介護によるストレスで精神障害を発症していた被告の責任能力が争点となっていた。
5日の判決公判で河村宜信裁判長は「犯行前後の合理的な行動から精神障害の影響は限定的で善悪の判断や、犯行を思いとどまることが難しい状態ではなかった」とし事件当時、心神耗弱状態だったという弁護側の主張を退けた。
ただ、「3人を献身的に介護する中で同情の余地がある」などとし、懲役20年の求刑に対し懲役18年の判決を言い渡した。
福井テレビ
引用記事で分かるように、この事件では被告人は3人もの人を殺害しています。それでは、事件発生時の記事も。
>男性に後遺症、母要介護 逮捕の妻「3人を殺害」
2019.11.18 08:31地方福井
福井県敦賀市の住宅で住人の親子3人の遺体が見つかった事件で、3人のうち、会社役員、岸本太喜雄さん(70)が軽い脳梗塞の後遺症で足が不自由になり、母の志のぶさん(95)が要介護1の認定を受けていたことが18日、県警への取材で分かった。太喜雄さんに対する殺人容疑で逮捕された妻で会社役員の政子容疑者(71)は「3人の首を絞めて殺害した」と供述しているという。
もう1人は父の芳雄さん(93)で、政子容疑者が3人を介護。県警は介護疲れが動機の可能性もあるとみている。18日、住宅を現場検証する。
逮捕容疑は17日未明、自宅で太喜雄さんの首を絞めるなどして殺害したとしている。
県警によると、太喜雄さんの首には手ではなく、何らかのもので絞められた痕があった。県警は近くに落ちていたタオルで就寝中に首を絞められたとみて、遺体を司法解剖して死因を調べる。
上でお分かりのとおり、この事件の被告人の立場は非常に厳しいものがありました。最初の記事にもありますように、検察も、この被告人には、刑事責任能力はあるとして起訴したわけだし、それは、裁判官も認めているわけです。しかし、さまざまな情状を考慮したうえで、死刑をふくむ重罰を休憩するにいたらなかったし、裁判所もその検察が描いたストーリーに特に異は唱えず、18年という判決を下したわけです。
この判決が確定するか現段階わからないし、刑事責任能力に問題はないとする地裁の判決が正しいかまた判断が難しいところですが、3人の殺害というのは、それだけで死刑の求刑もしくは判決があってもおかしくないものです。
私がこのブログで数回記事にしている死刑事件で、宮崎県で奥さん、子ども、義母を殺害した事件があります。
気になった話 ある死刑判決事件の背景(追記あり)(再度の追記) 「あの日がなければ・・・」と後悔すること(宮崎家族3人殺害事件の死刑が確定した) ある加害者家族・被害者遺族の叫び 「宮崎家族3人殺害事件」の死刑囚の声それで同じ3人の人を殺めて、なぜ死刑と懲役18年という差が出たかというと、つまりは宮崎の事件は、無関係な生後5か月の子どもを殺害したり、計画性や証拠隠滅などもあったり、また殺害後に出会い系サイトで遊んだりと、犯罪の状況が劣悪であるということが大きかったわけです。
ここで分かることは、同じ殺人であっても、やはり検察もそれなりに殺害態様はかんがみるということです。3人も人を殺して、それで20年の求刑というのは非常に軽い。もちろん検察(地検)も、このような求刑をするからには、高等検察庁ともいろいろ協議したでしょうし、まさにこの事件については、無期懲役や死刑を求刑するには値しないという考えがあったのでしょう。たぶん被告人が70歳を超えているという事情もあったかと思います。
先日私は、こんな記事を書きました。
精神に重大な問題があったのだから、減刑になるのは仕方ないと思うそれでその記事で引用しましたように、熊谷連続殺人事件の被害者遺族の代理人弁護士が、このように記者会見で語っていました。
>検察の不戦敗であり、職務放棄。司法に裏切られた被害者は誰にすがればいいのか
この弁護士にとっては、この件も、やっぱり不戦敗、職務放棄、被害者は司法に裏切られたってことになるんですかね?
そういうことを言い出すと、熊谷の事件と福井の事件は態様が違うとか言われるかもですが、でも熊谷の事件も重大な精神病だったようですからね。あの事件で死刑が無期懲役に減刑されたのは仕方ないでしょう。しかしともかく裁判官は当然として、検察官だっていろいろ事件の態様や事情をかんがみて求刑をするわけです。3人も人を殺した人物に対してだって、時と場合によっては懲役20年の求刑という温情措置を講じるわけです。そういうことを「悪い」といったってねえという気はします。いずれにせよ、前の記事で私の書いた
>余談ですが、検察だってやみくもに厳刑判決を要求するわけでもないでしょう。不起訴処分、控訴上告見送りにするのも様々な理由があるわけで、そういう措置をとったら「不戦敗であり、職務放棄。司法」への裏切とか言われたって、それはお門違いというものです。
ということの一例ではないかと思います。検察官が重刑ばかり追求していても、そのような世の中はあまり生きやすいとも思えません。